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第三十八話 お化け屋敷にて。 ※
しおりを挟む(ていうかさ!ていうかさ!こんなタイミングよく実行委員の仕事の呼び出しってなんだよっ…!?)
葵は小牧たちと別れたあと、不機嫌そうにそんな疑問に思いながらお化け屋敷のところへ向かった。
けれどお化け屋敷に到着するも、受付の子は葵が来たことに対して不思議そうな顔をしていた。
「あれ?なんかさっき小牧さんが呼んでたって聞いてきたんだけど…知らないかな?」
「え?そうなの?私知らないけど。」
「あれ?そっか…」
(じゃあ呼んでた人どっかいっちゃったのかな…?ていうかお化け屋敷なんかあんまり人気ないのかな…人が少ないような…?)
その時だった。
お化け屋敷の裏口からお化けの格好をしたあのチャラ男が出てきたのだ。
(ひっ……!)
ただでさえ強面で怖いというのに、今はゾンビのような格好をして更に怖くなっていた。
葵が驚きながらそれを見ていると、チャラ男とバチッと目が合ってしまった。
そしてーーーーー
「あれ?秋元じゃん。今ってなに、暇なの?」
「えっ?あ、えーっと。」
(あ、やばい。これは…)
「俺このあと彼女と回らなきゃ行けないからさー1時間だけ変わってくんね?今人来ねぇから楽だと思うし。」
「へ?」
「頼む!!実行委員ってなんでもやってくれるんでしょ?」
(いやいやなんだそれっっ!!!!?)
「え、いや…そういう訳じゃないよっ…!?」
葵が口篭りながらもやんわり断ろうとした最中、そのチャラ男は急に衣装を脱ぎ出して葵に渡してきた。
「はいよ!」
(はい!?)
これには意味がわからなかったが、チャラ男は「んじゃ、彼女が怒るからまたな!」と言ってそのまま葵の言葉を聞くことも無く、駆け出していってしまった。
「え……あ……ちょっとっ」
葵は戸惑って、受付の子の方をちらりと見るも、受付の子は下を向いて、どうやら見て見ぬふりをして過ごすようだった。
(くっそ!!!俺、完全に断れない奴だと思われてるじゃんか!!!)
いつもこんなふうに掃除当番を引き受けているからか、もう頼まれるのが日常茶飯事のようになっている現実は取り返しがつかないのだろうか…。
(しかも今朝、実行委員なんだからチャラ男にガツンと言っても平気だなんて和樹くんに言ってしまったぐらいなのに…。)
いざ現実化してしまうと断るものも断れなくなってしまうのは自分なのだと完全に落ち込んだ。
(はぁ、なんでいつも俺はこうなるんだか……)
なんだかーーーーー本当にツイてなさすぎる。
それにこれじゃあ今日は受付と仕事を押し付けられたくらいで終わってしまってしまうではないか。
ーーーーーまあ結局ぼっちの文化祭なんてこんなもんか。
葵はそう思いながら仕方なくお化け役を引き受けることにした。
どうせここで断っても一人になっていただろうし、それならばとっとと終わらせて早く帰りたい、だんだんそう思い始めていた。
(今頃、小牧さんは優一さん達と文化祭回ってんのかなぁ。いや、そもそも俺は小牧さんが言ってた実行委員のやつっていうの聞きに行ってて……)
「……!」
ーーーーーってもしかしてあれが嘘だったんじゃ…!ーーーーー
そう思って改めて葵は落胆した。自分はやはり鈍感すぎる。
(まあ良く考えれば……そうだよな。優一さんが来たこと伝えないで廻ってたからきっと嫌な気分になってたんだろうな…)
葵はそう考えながらお化け屋敷の仕掛けの黒いマントの内側で、そっとスマホを開く。
するとそこには1分前に小牧からメッセージが来ていたことを知らせる通知が来ていた。
(小牧さん…なんだろ?)
開くとそこには一言だけ、「協力してくれてありがとう!!」とだけ書かれていた。
(き、協力ってやっぱり………)
別にそんなつもりはなかったのだが、お礼を言われたらなんていえばいいか分からなかった。
これじゃあとてもじゃないけれど嫌だなんて言えない。
葵は仕方なく、「どういたしまして。」と返信してスマホを閉じた。
(てかそもそもお化け役ってどうやってやるんだし…)
ただ突っ立ってればいいのか?それか追いかける?
いやその前にそもそも…
(人が来ないんですけど!?)
そう思い始めてもう10分が経とうとしていた。
(流石に来る人少なすぎるな…もしかして怖すぎた、とか?)
それかしょぼすぎたのか?
受付仕事してるよな?
実行委員としてお化け屋敷の構成を考えていただけに、こんなに人の出入りがないと虚しくなってくる。
それに加えて、更にお化け屋敷特有の怖いBGMも流れていて尚更、気分が沈んできてしまった。
(な、なんか怖い。こりゃチャラ男も逃げたくなるな…)
とにかく、人が来ないのだ。それに、暗い。
目がなかなか慣れないほどの暗闇だ。
そして一番の問題はーーーーー
(ああ1時間って長い……長すぎるだろおおおお!!!)
何が悲しくてお化けなんてやってんだよまじで!!!!
(い、意味わかんねぇし!!)
ザザっ…!
(はっ…)
その時入口付近から人が入ってくる音が聞こえた。
扉を開けた時にふと受付の子の声も聞こえたのでもしかしたらお客さんが来たのだろう。
(や、やっとかよ…!!!)
こうなったら鬱憤晴らしにでもお化けとして思う存分にお客さんを怖がらせてやる!!
そうだ!!それがいい!!!
葵の中で突如そんな変な気合が入り始め、その足音が近づくまで静かに待機した。
その足音はどんどん近づいてくる。
(よし…あともう少し…そこまで来たら、ぐぁああって!やれば…)
ザク…ザクと徐々に近づいてくるお客さんの足音に待機し、いざ目の前まで来たらーーーーー
(よし!今だ!!!)
そう思って葵は思いきり立ち上がって脅かそうと思ったのだがーーーーー
ドスン!!!
「うわっっ!!!」
勢い余ってお客さんの体に思いきりぶつかり、お客さんの胸あたりに倒れてしまった。
(や、やばい!!)
「っご、ごめんなさい!怪我ありませんか!?」
葵は慌てて体制を直した。
(やべぇ!お客さんに激突するなんて俺何してるんだろ!?暗いから距離感がわかんなかったーーーーー)
「ああ、大丈夫ーーーーーって、葵くん?」
「ーーーーーえ?」
(ももも、もしかしてこの声は……この声は!!!)
「優一さんっ!?」
「あれ、実行委員の仕事呼ばれたんじゃなかったの?なんでここに?」
「えっ!?あっ…えっと……それはっ…」
な、なんていえばいいかーーーーー
(あっ…)
「ていうか!優一さんこそなんでお化け屋敷にっ…あっ小牧さんと栄人さんは…?」
(もしかして二人もいるのかーーーーー?)
「ああ、あの二人なら演劇を見に行ったからここには僕だけだよ。実は僕もその会場の中までは入ったんだけど、始まる前にそっと抜けてきたんだ。」
「え?な、なんで…」
「ん?僕は別に興味なかったから。」
「え。」
(俳優なのに演劇には興味ないとはいかに……。でも…)
「それでわざわざお化け屋敷になんて来たんですか…?」
「まあね。最初からお化け屋敷行くつもりだったし。それに、クラスの方で呼んでたって小牧ちゃんが言ってたからお化け屋敷にいるかなって思って。でも受付にはいなかったから、せっかく空いてそうだし入ったら、まさかっ…葵くんがお化け役やってるなんてねぇ…しかも本当に飛びかかってくるなんて…」
「なっ……それは勢いがつきすぎてっ…!」
「ふふ、まぁいいんじゃない?歩いてたらかなりの鼻息聞こえてきたから幽霊役の人構えているなぁって思って、ちょっと面白かったけど」
「えっ!?」
(鼻息なんて聞こえてたの!?)
そ、それは恥ずかしい…
けれど今はそんな恥ずかしさよりも、優一が抜けてわざわざこっちに来てくれたことの方が嬉しかった。
いつも一人の時にこうやって来てくれるのは、ほかの誰でもなくてーーーーー
どうして優一さんなんだろう?
って、都合よく思いすぎなのかな。
「ま、まあそのぐらい気合い入れてたんでいいってことで……。ていうかそうだ…優一さん、そろそろ進まないと次の人が困るんじゃ……」
「え?でも全然人いないよ。」
「い、いや確かに今は人全然いませんけど!ここでお化け役の人とお客さんが愉快に立ち話してるとかやばいでしょう!?」
(よく考えたらそれはシュールすぎるぞ!?)
「えー?まあ、文化祭だしそこは緩くていいんじゃない?それに匠南の演劇とこの時間にやってるバンドが凄いらしくて今人がみんなそっちに流れてる、だから恐らくあと1時間は人がなかなか来ないだろうね。」
「そ、そうか…だから異常に人が少なかったんだ!」
(それなら仕方ないか…)
「そうそう。」
「で、でも、でもですよ?こんな所で話してたら誰かにーーーーー!」
「いや、そんなこと気にする前に葵くん、ひとつ聞いていいかな?」
「っ……な、なんですか?」
「一体いつまで僕に抱きついてるの?」
(え?抱きついーーーーー?!)
「ふぇ!?………っっっ!!!」
その瞬間自分が倒れ込んだ勢いで優一の体に抱きついていたことに気づいてバッと離れた。
「あっっ!ご、ご!ごめんなさい!お、俺転んでそっから無意識にっ……ぁぁあ本当にごめんなさいっ…!」
(う、嘘だろ!?何やってんだ俺!!!)
まさか優一さんに抱きつくなんて…。
「はは、これ僕じゃなかったらどうするの?ドジなお化けさん。」
「ど、ドジって…!今のは本当に違くてっ」
「ははは、まあそのまま抱きついてても真っ暗だから誰にもバレないけどね」
「えっ?」
その瞬間、大きな体が葵の体を包み込んで、葵は思わず声を上げそうになってしまった。
こんなふうに触れ合うのは久々の感覚だ。
「ゆ、優一さんこれはなんのおふざけですかっ…ここ学校だし今俺はお化け役で仕事というものをしてーーーーー…」
ビクンッ…!
「ふぇっ!!」
(え、な、何…今の……え?)
突如全身が震えるような感覚に襲われた。
「あれ?葵くん……」
すると優一の吐息が耳元に近づいて、背筋がぴーんと伸びる。
そこからゾワゾワっとした何かが奥から身体中に広がる感覚がして、葵は思わずよろけそうになる。
(え、何ーーーーー)
なにこれ……?
その瞬間耳元で優一の声が響いた。
「ねぇ…葵くん、なんで反応してるの?」
ドキン!!!
(反応してる?)
「はっ、はい?!ま、また何言い出すかと思ったらっ…!!」
葵が動揺して大きな声をあげると咄嗟に口元を塞がれた。
「んっ…」
「シーっ…葵くん。静かにしないとバレちゃうよ?」
「はっ…ちょっ…優一さん一体何する気ですかっ…!」
(あ、あれこの感じどこかでーーーーーあ……)
ーーーーー京都の露天風呂…ーーーーー
葵はその時のことを思い出してしまって、こんな場所だと言うのに途端に身体が火照っていくのを感じた。
「ゆ、優一さんそれはだめですって……」
(まずい、まずいって!!ここ学校だぞ!!?)
葵が手で制するも、優一はお化けの服を巻くし上げて下のベルトを外し始めてしまった。
「それにこの衣装ダボダボでしょ?えろいな」
「なっっ!???」
(え、えろいってな、なんじゃそら!!!)
「ちょっ…まじでっ…本当に俺無理だってっ…」
「葵くんが反応してるから気持ちよくしてあげるのに、ダメなの?」
「これはちがっ…それにここ学校だしひ、人くるからっ…だめっ…」
(てかそういう問題じゃーーーーー)
「大丈夫、来ないよ。」
「んんっ……」
暗闇の壁際の方に押し付けられ、勢いよくキスをされる。
ここは学校で、しかも自分の教室なのに…
(来ないって、なんだよその確信…!!)
なのにこんな事され続けている自分にも恥ずかしくなって、なんとも言えない感覚に襲われた。
暗闇で丁度見えないから尚更予想がつかなくて体が派手に反応してしまう。
そんな、どうしてーーーーー?
「あーあ、こんな所でこんなことしてるなんてね。」
優一はクスクスと悪戯に言う。
「ゆ、優一さんが勝手に変なことはじめたんじゃっ…」
「勝手に反応したのは葵くんでしょう?」
「はっっ…ううっ…」
「可愛いね。」
「へ、変態過ぎですよ本当にっ!」
「それはどっちかな…?」
その時だった。
目が慣れたのか、微かに優一の顔が見えた気がした。
サングラスもマスクも外した優一の顔は優しそうにこちらを見つめていて、なんだか余計に緊張してしまう。
見つめることすら上手くできず、葵は暗闇の中だと言うのに思わず視線を逸らした。
すると突然優一はこんなことを聞いてきた。
「ねぇ葵くんってやっぱりさーーーーー…僕のこと好きなの?」
「えっ…え?!」
(すすす、好きって…!!?)
予想だにしていなかった質問に葵の体はガクッと飛び上がった。
「ななな、何言ってるんですかっ!ていうかこんな所でなんでそんなこと聞いてっ…!」
(普通にそんなの答えられるわけ…!)
「なんで?好きじゃないなら好きじゃないで、それでいいと思うけど。」
「えっ……」
(好きじゃない…とか、そんなのーーーーー)
あれ、否定出来ないーーーーー?
ぐっ…ちゅ……
「んんっ…!」
「葵くんだって、全然拒んでないよ。京都の時も…今も。」
「そ、それは拒んでるのに優一さんが無理やりするからじゃないですかっ…」
(本当にこの人は何を考えてこんなことをするんだよっ…)
思えばこんなことをしている時点でもう小牧のことを裏切っているのに、こんな形で協力なんてどうしようもないものだった。
それに実際、拒むことだってしているかわからない。寧ろこれはーーーーー
「無理やり?そんなまさか。葵くんのこと気持ちよくしてあげてるだけだよ。それにここ、こんなに硬くしてたら痛くて仕事なんてろくにできないでしょう?」
「でっできなくないっ…」
「できないよ。」
「ふぅっ…んん……」
だんだん自分の反論する声にも力が抜けてきて、いつしか抵抗すら出来なくなっていた。
(優一さん、ほんと人来たらどーするつもりなんだよっっ…)
なのに止まらなくて。どんどん気持ちよくなってしまって。
あの時のことを思い出してしまう。
「はっ…はぁっ…あっもっだめ…おねがいとめてっ…」
「止めない。いっていいよ。葵くん」
「で、でもっ…声出ちゃ…あっ…」
「そう、わかった。」
「ふぇっ?なにがわかっ……っっんっ!」
その瞬間強くこすられ、ディープキスをされて声を出すことさえ押さえつけられたままーーーーー
「んっっ…んっぁ…」
(嘘っ……俺こんなところでーーーーー)
「あっっ……」
葵は学校の文化祭という場で快楽の絶頂に達してしまったのだったーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぁ………」
葵は実行委員の集合場所で文化祭1日目終了の挨拶を行った後、和樹と共に文化祭で出たゴミを一通り片付け、明日に備え早めに解散することとなった。
匠南は今年の文化祭もやはり大盛況で、無事に文化祭1日目が終わって、本当に良かった。と葵も実行委員なりには思うのだがーーーーー
思うのだがーーーーー!
(そんなことより…俺!!俺!何やってんだ俺ぇええ!!!!)
結局チャラ男は1時間で戻ってこなかったし、そんな自分は学校で、しかもお化け屋敷とはいえ自分の教室であんなことしてしまったのだ。
もう罪悪感というかなんというか…計り知れない気恥しさで葵は今すぐにでも消えてしまいたいぐらいだった。
(まあでもあの後お詫びとして綿飴二つも買ってくれたしもう気にしないでいこう………ってそういう問題じゃねぇ!!)
ただ、その後栄人と小牧に優一の居場所を問いただされたものの、上手く言葉が見つからず、「知らない」と言って誤魔化してしまったことだけは引っ掛かりを感じていた。
なんだか申し訳なかったのだ。
でも、正直あれは誤魔化すしかなかったし。
(それにお化け屋敷に二人きりでとか言えるわけないし!!!)
「あ、葵くん…だ、大丈夫?さっきからため息ついてるし、顔も凄く疲れてるみたいだけど…」
「あ、ご、ごめん…大丈夫…。」
時刻は既に18時を過ぎ、学校の周りにはほとんど人がいなくなっていた。
そんな校門を二人は抜けて、重い足取りで家路を歩いていた。
10歳くらい歳をとったのだろうか…足が重い。
「それにしてもお化け屋敷の仕事任されるなんて大変だったね。明日は仕事漬けじゃなくてちゃんと廻れるといいね…」
「うん……あ、そういえば和樹くんはどうだったの?」
「あ、僕は先輩が仕事変わってくれてそれで親と一緒にまわったよ。」
「あ、そうだったんだ…!」
(そっか。和樹くんもまわれたんだ…いいな…)
「だからてっきり葵くんも先輩がやってくれてたりしたのかなーなんて思ったけど…受付は違うのかな?」
「う、うん…多分違うかも…」
(というかどっちかというと、実行委員の仕事より頼まれた仕事な方が長かったしめんどくさかったし……あのチャラ男めっ)
「そっか!じゃあそしたら明日は一緒に回らない…?」
「え、う、うん!!回る!!!」
(よ、よかった!!明日こそ文化祭らしいことが出来る…!)
「ありがとう!じゃ、時間空いたから明日連絡するからよろしくね…!」
「おう!じゃあ…!」
「うん、またね。!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「優一さん、先帰っちゃったんですねー」
「ああ、そうだな。」
栄人と小牧は校門を抜けると事務所から遠回りで家に帰ることにしていた。
いつもこうして人通りが少ないところを選んで周りに気をつけて歩かなければならない。
「優一さん、ミュージカルあんまり興味なかったのかなぁ…」
小牧はんー。と残念そうに言った。
小牧は同じ事務所の後輩であり、社長の愛娘だということは随分前にスタッフから聞いていた。
だからこそ事務所でも慣れ親しまれているキャラだったし、優一とも初っ端から楽しく話をしていた。
「まあ、あいつは人が多かったりするとこは苦手だったりするし、混雑してたから抜けたんじゃないか?」
「そうなんですかねー。」
ふと、小牧が栄人の顔を見る。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど…ーーーーー栄人さんは、二人についてどう思います?」
「ん、二人?」
唐突な質問に栄人は思わず聞き返した。
「ああ、二人っていうのは葵くんと、優一さんのことです。葵くんのことはご存知なんですよね?」
「あーまあな。」
「なんかあの二人って不思議ですよねー。」
「不思議?」
「あ、まあこれは私だけの勘違いかもですけどね。優一さんって結構お人好しなのかなぁって思ったりするんですよ。」
(お人好し……)
それはわかる気がする。
「まあだからこそ、いい人なんだなって思いますけど。」
「ああ、そうだな。」
「でもそれ以上なんじゃないかなぁって、私、たまに思っちゃったりしてーーーーー」
(……?)
「ん?それ以上ってのは何ーーーーー?」
栄人が首を傾げると、小牧は慌てたように手を振った。
「……え?あ、ああ、ごめんなさい。えーっと、やっぱりなんでもないです!…あ、そうだっ…あと私ここで親に迎えに来てもらう予定なので、栄人さん、今日はここでっ」
「え、あ…そうか。」
「今日楽しかったです!明日のお仕事頑張ってください!」
小牧は突然切り返すようにそう言って、駅前の交差点にて小牧とは解散するような流れになった。
(それ以上…って)
栄人は小牧と別れてから一人、歩道橋を歩きながら考えていた。
確かに優一と葵のことに関しては気になることがいくつかあるが、あの優一に限って、そんなことはもうないだろう思っていた。
だってあいつはーーーーー
あいつは。
(って、いつまでも昔のこと引っ張り出してる俺も俺でどうかしてるよな…)
何年も前のことを思い返してしまうのはどうしてなのだろうか、と考えることが度々ある。
でもその度に思うのだ。
やはり自分が、自分自身が優一のことをーーーーー
(ーーーーーーーーーーなんてな。)
そんなことはもう終わったんだ。
栄人はそう思いながら、そんな自分に呆れてため息を一つ、零したのだった。
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
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