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第二十五話 胸騒ぎ

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夏休みが始まってからの2週間は割と家でグダグダしている日が多かった。
その間に宿題は全部終わらせてしまったし、もう他になにもやることはなかった。
ただ、7月末の天体観測は生憎の雨で中止になり、急遽屋内研究会みたいなことになってしまって、残念だった。
けれどその代わりに、先輩達が計画を練って、10月の終わり頃に秋の星の観測をしようーーーーという流れに至り、観測は先延ばしになったのだった。



そんなこんなで七月も駆け抜けるように終わりを迎え、ついに8月が始まった。

葵は上京した時に持ち運んできたトランクケースに京都旅行へ持っていく物を詰めると、おばさんと久々に軽く電話することにした。

「もしもし。おばさん」

《もしもし。まぁ、葵くんの声久々ね》

「うん。なかなか話せなくてごめん。おばさん、最近どう?」

《今はね、庭でなったトマトをおすそ分けしてたところ。そういえば葵くんは明日優一さんと旅行に行くんですって?》

「うん。京都に。その後でおばさんの家にも帰るから」

《わかったわ。旅行、めいいっぱい楽しんでね。》

「うん。ありがとう」

(よかった…おばさん、元気そうだ。)


「お土産とか、何がいい?八ツ橋は買っていこうと思っているんだけど」

《そうねぇ、でも八ツ橋だけでも嬉しいわよ?おばさんもこの前、ちょっと遠出したから、その時のお土産渡すわね》

「そうなんだ!ありがとう」

それからほんの少し他愛もない話をして、葵は電話を切った。
旅行に行くことは、優一が既に伝えていてくれたのだろう。
葵にとって旅行に行くことなんて本当に初めてだから、おばさんも喜んでくれているみたいだった。

葵ももう心の中では旅行の事ばかりで、本当にワクワクしていた。

(優一さん、早く帰ってこないかなぁ)

優一は今日も仕事で22時までは帰ってこないらしい。
けれど、支度は済ませているようだし、明日は朝早くにでも出られると言っていたから、葵は時間を悠長に使って支度をしていた。

その時だった。

ピロン…と携帯に何かの通知が来た。

きっと優一からだろう、そう思っていた葵が急いでスマホを開く。
するとそこには久々に小牧からのメッセージが来ていた。
あれから二週間、何もやり取りをしなかったのでどうしたのだろう。と早速メッセージを見る。
しかし、メッセージを読んだ葵は驚きでスマホを眺めたまま立ち止まった。

「え…」

【葵くん久しぶりー!ねえねえ、さっき優一さんに聞いたんだけど、明日から京都の旅行行くの?】

(優一さんそのこと話したんだ…)

別に優一が悪い訳では無い。
小牧の気持ちだって知らないし、葵自身の気持ちだって知らないのだから。
でも複雑だった。
小牧にそれを伝えて、優一のことが好きな小牧はきっといい気はしなかったはずだ。
優一が男を好きだという事実も知っているわけだし。

葵はなんて送ればいいかわからず5分ほど悩んだが、結局いい言葉は思い浮かばなかった。
なので、とりあえず「そうだよ」と打って送った。
するとすぐに返信は帰ってきた。

【そうなんだ!!へぇー、すごーい!】

(ん…何が、凄いんだろ…?)

下へスクロールすると、【楽しんでねー!】という文字と共に星の絵文字が付けられていた。

葵は何となく違和感を抱きつつも、「ありがとう」とだけ送って、スマホをソファに置いた。

けれど、なんだかーーーー無性に嫌な予感がしてきた。

何故なのだろう…?

こんな暗い気持ちになんてなりたくないのに。


葵はとりあえず心を落ち着かせるため、明日の天気予報でも見ようとテレビを付けた。

ハキハキとした声の男性のアナウンサーが、明日の天気を順に伝えていく。
明日は東京も、京都も天気は晴れで、降水確率もほぼ無いらしい。

葵はホッと息をついた。

「はぁ、よかった。明日も明後日も晴れだ」

そうだ、楽しもう。
優一さんが折角連れてってくれるのだから。

初めての旅行なんだから。

沢山案内しないと。

楽しんでもらわないと…!


葵は早めのお昼ご飯を食べ終えると、また明日の支度に戻った。
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