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第十八話 疑問
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その晩ーーー栄人の話は優一に伝わったらしく、優一は栄人に葵を任せるということで話はまとまった。
「そっか。栄人、家に来たんだ。」
「はい…」
(ごめんなさいって言ったら、また謝るなって言われちゃう…よな。でも…)
「栄人に何か言われた?」
「えっ…特に何も…言われてないです。…明日頑張ってくださいね。俺、かなり体調良くなったし、心配ないですから。」
「そっか。わかった。」
「……は、はい。おやすみなさい。」
「眠い?」
「……え?」
「いや、…なんでもないよ。沢山寝た方が良いね。」
「あ、はい…」
優一は何か言いたげな顔を逸らして背を向けた。
葵も自分の部屋に入ると、ベッドに滑り込むように潜る。
普通に話せてるのに、なんか違う。
そう思う心の違和感が大きくなって、おかしい。
(でも明日は栄人さんだからーーー大丈夫だ。)
葵はそう心に言い聞かせて、無理矢理眠りについた。
…………………………………………………………………
次の日の朝、起きると優一の姿はもうなかった。
栄人に何か言われたのか、珍しく寝坊せずに行ったらしい。
(優一さんの話では、今日は11時ぐらいに栄人さんが来るんだっけな…)
軽めの朝ごはんだけを済ますと、葵はその間リビングで時間になるまで勉強をした。
(ーーーよし、ここはバッチリだな)
ピンポーン!
葵が数学の問題集を10ページほど進めた辺りで、家のチャイムが鳴った。
「はーい」
玄関を開けると、ラフな格好の栄人が「よう」と片手を上げて立っていた。
栄人はリビングに入ると、ソファにどすんと腰をかける。
「昨日はごめんな?具合悪いのに変な話して」
「え、大丈夫ですよ。」
「でもあいつほんとアホだなぁと思ったわ。才能も羨ましいくらいの美貌もあんのに、分かってねぇよな。仕事貰えるってどれほど有難いことか。」
「ああ…そうですよね…」
(……でも、俺のせいでもあるし…なんとも言えない…)
「そういえば、葵、今体調はどうなの?」
「あ、体調はもうほぼ治った感じです」
「歩いてしんどいとかも無し?」
「ないですよ。」
「ふーん。」
「……?」
栄人は少しだけ考え込むと、思いついたように呟いた。
「んじゃちょっと出掛けるか。」
「……へ?」
栄人はそういうなり座ったばかりのソファから立ち上がると足早に玄関の方に向かってしまった。
(き、急に…え!?)
葵も部屋から上着を持ち出すと、慌てて後を追った。
高層マンション専用地下の駐車場で栄人の車に乗り込むと、栄人は行先も言わぬまま車を走らせた。
葵はその様子を助手席からただ見ていることしかできなかった。
(……ど、どうすれば…)
車は高層マンションを抜けると、知らない方向へと向かっていた。いつも食べに行ったりしてる方向とは反対方面だ。
しかしながら、この沈黙は辛い。
葵が話を切り出してもいいものなのかと迷っていると、暫くて相手が沈黙が破った。
「最近、どう?学校とか。」
「えっあ…学校は、なんとか順調に通えてます…」
(少しモヤモヤすることはあるけど…それは別に言わなくていいよな。)
「それは良かった。優一の世話、大変だろ?」
「それは…正直慣れました。それにしても優一さん、本当に生活できなくて驚きました。」
「だよなぁ。テレビの前になるとなんでもできるのに、プライベートだと基本、何も出来ないんだよ。あいつ結構良い暮らしして育ったからそれもあるかもなぁ。」
「そ、そうなんですか」
(なるほど……それなら納得。)
「ていうのも親がさ、企業者で大手の社長なんだよな。」
「え…そうなんですか!?」
「そうそう。それで、いつも休日はパーティーとか外食とかだったらしいよ。んで親の誕生日の時も親主催のパーティーを毎年やるし、掃除や洗濯にも家政婦がいてさ、家庭教師も二人つけられてて、優一はめんどくさかったとかだるかったとか言うけど、実家もかなりの豪邸。正直、羨ましいよな。本人は全然そんなふうに思ってないみたいだけど。」
(はっ…だからこの前の親の誕生日の時も、パーティーしてたから、朝まで帰れなかったんだ…そうか、知らなかった……)
「だからあいつ、そういうこともあって結構変わってるだろ?一緒に暮らしててそう思わない?」
「お、思います…」
(ええ、かなり変わってると思います…はい…)
「だから俺、心配になってたんだよねー。もう葵も学校始まったし、なかなか会えないから聞くタイミングもなくてさ、だから昨日これは良い機会だと思って言ったんだ。俺が優一の代わりに面倒みるってこと。」
「そうだったんですね。心配ありがとうございます。でも…生活に関しては大丈夫ですよ。」
「本当?」
「はい。逆によく面倒見てくれてるなぁってところもあるし、家事以外のことでは色々連れてってくれたりしますし、今回のことだってすぐ駆けつけてきてくださいましたし…」
(そういえばもっと前の、あの寄り道も…本当は俺のためだったのかな。)
ふとそう思って、葵は無自覚に顔を赤くしてしまった。
なんでこんな時に、と思うが…そうだとしたら嬉しい。
栄人はその様子を見て、その後前を見て車を走らせながら静かに呟くように言った。
「………確かにあいつは、優しいよ」
「そうですよね」
「変なとこで気を使ってくるし。」
(栄人さんも同じこと思ってるんだ)
「本当、そうですよね。」
「でも好きになったりなんてするなよ。」
「えっ」
思わぬ言葉に葵はそのままの声を漏らしてしまった。
(え、なんで?どうして?)
だって、好きになったりしたらーーーなんて…
つい昨日、そのようなことを自分が言ってしまったばかりだというのに。
葵は色々な感情が追いつかなかった。
葵は胸がドキドキしてくるのを抑え込みながら、冷静を装って聞き返す。
「そ、それはなんでですか?」
「あいつは恋愛ができるようなやつじゃないから。」
栄人は躊躇うことなく即答した。
でもこれは前にも、聞いたことのあるような返答だった。
(確か一番最初の時も…俺と優一さんが付き合ってるのか聞いてきた時も優一さんは付き合えないとかそんなような事…言ってた……でも、なんで?)
葵が何も言えずに黙っていると、栄人が問いただすような口調で訊ねる。
「葵、まさかもう優一のことを好きとかじゃねぇよな?」
「えっ?」
ドキン……
(好きなわけないじゃないですか。)
と言おうとして、心の中のどこかで何か、違和感のようなものがちくりとする。
(あれ…?)
「葵?」
栄人の目線が葵の逸らした顔を見つめる。
(あ、いけない。否定しなきゃ)
「…そ、そんなわけないですよー!ま、前にも言ったじゃないですか。ていうか、俺女の子が好きなんですからっ…」
そう言いながら、納得していない自分がいた。
何故だか、チクチク…する…
「ああ、ーーーそれならよかった。まあ、たしかに。いくらかっこよくても、あんな変態ホモは無理だよなぁ。」
「そうですよ…」
(そうだよ…そうに決まってる、よ)
「じゃあ、大丈夫だな。」
「はい…」
(なのに、どうした俺…まだおかしい。)
栄人は車を右折させると、とある駐車場に車を止めた。
エンジンを切り、栄人につられて葵も降りる。
「ん?…カフェですか?」
「そそ。丁度昼飯時だろ。葵はお腹空いてるか?」
「あ、はい」
「んじゃ良いや。食べようぜ。」
お店に入り窓際の席に案内されると、葵は栄人と向き合って席に座った。
まさかあの俳優の栄人と二人きりで食事する日が来るとは…と前なら純粋に思っただろうが、今、葵の気持ちの中ではそれよりも更に上回る気持ちがあった。
(なんで、優一さんは、恋愛が出来ないんだろう)
思えば葵は、優一の家庭事情も何も知らない。
ただ全国民と同じように、黒瀬優一という存在が俳優であり、栄人と同じように、一人暮らしだった時のプライベートの現状を知ってるだけだ。
優しさもどうして向けられたものなのかわからないし、たまに見せる表情が何を思っているのかも読み取れない時がある。
ただ、あんなに優しくて人思いなことができるし、キスだってあんなに上手いし(そこは関係ないかもしれないが)モテモテなのになんで恋愛ができないのか、気になった。
そしてそれをどうして栄人が言うのかも。
「お前、本当にそれだけで足りるの?」
「はい。大丈夫です」
葵はパンケーキにバターを塗ると、小さく切って一口食べた。
優一が前に、栄人の方が甘党だと言っていたからまさかとは思ったが、やはりここは甘いもの全般のお店だった。
栄人は安心したように「そう。」と軽く呟いてから、頼んでいたパフェを口に含む。
それから暫く二人は黙々と食べ続けた。
別に気まずいわけでもなんでもないのに、胸の中がザワザワする。
「甘いもの、そんなに好きじゃなかったっけ」
「……えっ、あ、いや、好きですよ。」
(ああ、暗い顔してたかな。申し訳ない…)
「そうか。俺の完全なる趣味で付き合わせちゃって悪ぃな。」
「いや、全然……あ、あの今日って何時頃までいらっしゃるんですか?」
「一応16時まで、そのあとは予定あるから。でも、体調も殆ど平気って言ってたし、大丈夫だよな?」
「分かりました。大丈夫です。」
ーーーその後、お店から出ると栄人は再び車を走らせた。
聞くところによると、ドライブが好きらしい。
行き先も決めず、車は都会の道を延々と走っていく。
上京したての時は、このビルが建ち並んだ風景さえも真新しいものに感じていたのに、優一に色々連れていってもらったからか、今ではもうほとんど新鮮な感じがしない。
それは寂しいようで、自分が無事に都会に溶け込めたんだというような、複雑な気持ちだ。
「そういえば、ここの道、優一とよく走ってたなぁ」
「え、そうなんですか」
葵は顔を上げて、周りの景色を見渡す。
高い橋の上で、高いビルやら何やらが下からよく見える。夜だったらとても綺麗だろうなぁーーーと想像できる場所だった。
「そうそう。優一も高校の時に上京してるから、大学生になったら都会の街を運転しまくろうって話になって、練習でここ使ってた。」
「そっか…栄人さんと優一さんて、高校の時からの仲なんですか?」
「いや、中学3年」
「え、そうなんですか?どうやって知り合ったんですか?」
(気になる…)
「んーとね、あいつ中学の時からよくモデルやら芸能事務所やらにスカウトされてて、1度ファッションショーのイベントで優一が一回限りで東京来た時に知り合ったんだよ。」
(中学の時からスカウト…そこでもう既にスタイルと顔整ってたんだな…)
葵は黙って頷く。すると栄人が続けた。
「そんで、ファッションショー終わったあとで皆が自分の名刺なんかを持って、自分の名を売り出したり人脈広げようと話しかけたりしてる中、ずば抜けてイケメンのくせにあいつは端の方でうさぎのぬいぐるみ抱えながら一人でノートに文字ばっか書いてて、さも興味無さそうにしてた。」
「う、うさぎのぬいぐるみ…」
「そうそう。今も部屋に置かれてるあの抱き枕的ぬいぐるみな」
「あ、あれ持ち歩いてたんですか…」
「そう。やばいだろ。なんか知らないけどうさぎのぬいぐるみが好きらしくてさ。まあそんなことはいいんだけど、とにかくノートばっかに集中してて誰かが近くを通っても話しかけないし」
「そ、そうなんですか」
(それにしてもそんな誰とも絡まずノートに文字を書いてばかりとか…)
「演技とか、バラエティにも出まくってる黒瀬優一さんからは想像もつかないですね」
「だろ?今なんかカメラマンが求める前にバッチリポーズ決められるほど仕事覚えも早いし、自分の見せ方もわかってるのにな。」
「でも…その一回切りで、栄人さんは優一さんと連絡も交換して話すようになったんですか?」
「そうだよ。絶対こいつ凄い俳優になるから連絡先聞いとけって親に言われて俺が聞きに行った。」
「え。」
(いや、親に勧められたんかい!)
「んで初めは仕方なくって感じで話してたんだけど、高校がまさかの同じでさ、あいつも俺も同じ事務所に入ったから、話していくうちにめっちゃ仲良くなってた。」
「そうなんですね」
(そっか。栄人さんも、同じ事務所なんだ。)
「おう。だから今では一番の仲なんじゃねぇかな?」
「そうですね、確か優一さんも前に、栄人さんは親友だって言ってました。」
「おお、そうだったのか。」
「はい…」
「まあ、10年以上の付き合いだからな」
「長いですね…」
「うん、だからあいつのことは色々わかるよ」
「そ、そっか…」
ドキン…
(そうだよな。栄人さんは当たり前だけど数ヶ月一緒に暮らした俺なんかよりもよっぽど優一さんのことをよく分かっている。だからこそ、他人の事でも恋愛ができないなんてことも言えたんだ。その意味が俺にはわからないけど…とりあえず、俺がなにか言えることじゃないんだ。)
(だから、間違っても好きになんてならない。)
葵は自分の胸に強く言い聞かせた。
その後暫く栄人に連れられて都会の街並みをドライブしーーー夕方頃に無事に高層マンション地下の駐車場に戻ってきた。
「ここからは、自分で戻れるよな?」
「はい。大丈夫です。あの…今日はありがとうございました。楽しかったです。」
「おう。俺も楽しかったわ。また、機会があったら連れてってやるよ。じゃあーーーあ。まって。」
「え?」
「ずっと前から言いたかったんだが、連絡先教えてくれるか?」
「あっ…はい!」
(そういえば前、栄人さん優一さんにそう言ってたんだっけ。でも優一さんがダメだって言うから、結局交換できなかったんだ。)
栄人は葵と連絡先を交換すると、「そんじゃあな」と言って、車を走らせて行った。
葵はその栄人の車が見えなくなるまで見送ると、自分は家に帰った。
………………
……………………………………
その晩ーーー優一が帰ってきたのはいつもより遅い23時半だった。
流石に葵は先にご飯を食べたが、洗い物をしたり明日の準備をしたりして、まだ起きていた。
「あっ…おかえりなさい。」
「ただいま。あー今日も疲れた…」
優一は帰ってくると、リビングのソファの上に鞄を置いて、テーブルに置かれた夜ご飯を見ると嬉しそうに笑う。
「あーごはん、作ってくれたんだ!作らせるの悪いと思って買ってきてしまったよ。」
「あっ…そうだったんですか。すみません、メールしなくて。」
「ううん、大丈夫。嬉しいよ。」
「か、買ってきたのはどうするんです?…」
「勿論、葵くんの料理が食べたいから、買って来たのは要らない。」
「なっ…勿体ないじゃないですか!」
「葵くんの料理捨てる方が勿体ない。」
「っ……そ、そうですか。」
こういうセリフなんて、いつものことだった。
帰ってきて、テーブルに自分のご飯があるといつも嬉しそうに「今日もありがとう。美味しそうだなぁ」なんて言う。
前まではそんなの聞き流せていたのに、何故なんだろうか。
それさえも今はよく考えてしまう。
そもそもこの人はなんでそんなこと言うんだろう、なんでそんな褒めてくれるんだろう…
それって俺が作った料理だからーーー?
そう考えて、葵はハッとする。
(だめだ、今日栄人さんにも言われただろ…)
でもその消えない疑問が解けるまでは、きっと考えてしまう。
だって、こんなに褒め上手で相手を喜ばすことに手慣れているような人が、恋愛できない人には見えないから。
葵が考え込みながら洗ったコップを拭いているとーーーふと、ご飯を黙々と食べていた優一が手を止めて、訊ねてきた。
「葵くん、今日一日栄人とはどうだった?」
葵はコップを置くと、顔を上げて答える。
「あ…今日は本当に楽しかったですよ。俺が体調もすっかり良くなったから、栄人さんがドライブに連れてってくれて…色々話しました。」
「へぇー。どんな話したの?」
「二人が仲良くなったらきっかけ、とか。」
「あー…そういう話したんだ。他には?」
「家の事とか」
「家の事?」
「なんか、親が偉い人だってこと、聞きました。」
「あー、そっか。葵くんは知らなかったよね。」
「はい。」
「そうかそうかー他には?」
「他はーーー」
ーーー【あいつは恋愛できるようなやつじゃないから】ーーー
「はっ……」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや…他はまあ、景色の話だったりとか…です。」
(これは流石に本人にいえるようなことじゃないよな…ていうか言ったところで、なんだって話だけど…)
「ふーん。そっか。」
沈黙が暫く続いた。
葵はコップを食器棚にしまうと、風呂を洗ってないことを思い出した。
「あ、すみません。お風呂入れてなかったです。今から入れてきますね!」
「葵くん」
「はい?」
「キスしたい」
「にゃあ!?」
ゴチンッ!!
葵は勢いよく壁に頭をぶつけて、床にしゃがみこむ。
「い、いてて…」
「え!?あ、葵くん、どうしたの?いつもの家賃の話だったんだけど…」
「すすす、すみません!そっか!そうだ!!そうでした!」
「葵くん、大丈夫?頭ぶつけてたけど」
「だ、大丈夫ですよ。すみません…。忘れてて」
(あれ、どうした?俺、なんで今、ドキッとした?)
「いいよ。ーーーじゃあ目を瞑って」
「は、はい」
葵は優一に言われる間もなく、優一の真っ直ぐに見つめる色素の薄い瞳から目を逸らすように目を瞑った。
「じゃあーーーするね?」
ドクン…
これはいつもの家賃のキスだ。
今まで、ほぼ毎日してきたことだ。
ドクン…
だから、いつも通りにしてれば終わる。ーーー
優一の唇が、優しく葵の唇に触れて、軽くキスをする。
そして次第に舌を入り込ませーーーいつもみたいにその腕は、葵の腰あたりに回されて、ぐっと引き寄せられる。
「んんっ……ふぁっ…」
ドクン…
葵の口の中を熱い優一の舌が、何もかも絡めとるように掻き回す。
こんなのいつも通りのことだ。
なのに。
何かおかしい。
何かがおかしいことに気づいてしまった。
「ーーー葵くん、終わり。」
「ふぁ…な、長いですよ…」
「そう?本当はもっと長くてもいいけど、今日はこの辺にしといてあげるよ。」
「し、しといてあげるってどういう…」
ふと顔を上げると、優一の顔が近くて、優しくて
葵を見ていた。
(あれ……)
この人って今までもこんなふうに真っ直ぐ俺を見ててくれていたっけ。
そういえばキスの後は嫌で、よく顔を見ていなかったけどーーー
「ーーーん?見つめてきてどうしたの?もしかして、もっと、欲しいとか?」
優一はニヤッと笑みを浮かべる。
それを見て葵はハッとした。
危ない。
「……っ!ち、調子乗らないでくださいよ!そ、そっちがじーっと見てきたんでしょうがっ!!」
「はは、ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。で、お風呂洗ってくれるんだっけ?」
「あ、そ、そうですよっ……もう!変な時に家賃挟まないでください!じ、じゃあ…~~~~~さ、さらばっ!」
葵はそう言い捨てると、バスルームに急いで駆けていった。
「はは、さらばってなにそれ。」
優一は駆けて行った葵を見つめながら、自分の唇を抑えた。
まだ熱を帯びている。
(ああ…)
…………………
「……全く、可愛いなぁ…もう。」
愛しくて、仕方ないあの子の姿だ。
違うことは知ってる、だからこそ僕は欲しい。
ーーー今度こそ絶対に逃がさないよーーー
優一はくるりと背を向けると、自分の部屋に戻った。
「そっか。栄人、家に来たんだ。」
「はい…」
(ごめんなさいって言ったら、また謝るなって言われちゃう…よな。でも…)
「栄人に何か言われた?」
「えっ…特に何も…言われてないです。…明日頑張ってくださいね。俺、かなり体調良くなったし、心配ないですから。」
「そっか。わかった。」
「……は、はい。おやすみなさい。」
「眠い?」
「……え?」
「いや、…なんでもないよ。沢山寝た方が良いね。」
「あ、はい…」
優一は何か言いたげな顔を逸らして背を向けた。
葵も自分の部屋に入ると、ベッドに滑り込むように潜る。
普通に話せてるのに、なんか違う。
そう思う心の違和感が大きくなって、おかしい。
(でも明日は栄人さんだからーーー大丈夫だ。)
葵はそう心に言い聞かせて、無理矢理眠りについた。
…………………………………………………………………
次の日の朝、起きると優一の姿はもうなかった。
栄人に何か言われたのか、珍しく寝坊せずに行ったらしい。
(優一さんの話では、今日は11時ぐらいに栄人さんが来るんだっけな…)
軽めの朝ごはんだけを済ますと、葵はその間リビングで時間になるまで勉強をした。
(ーーーよし、ここはバッチリだな)
ピンポーン!
葵が数学の問題集を10ページほど進めた辺りで、家のチャイムが鳴った。
「はーい」
玄関を開けると、ラフな格好の栄人が「よう」と片手を上げて立っていた。
栄人はリビングに入ると、ソファにどすんと腰をかける。
「昨日はごめんな?具合悪いのに変な話して」
「え、大丈夫ですよ。」
「でもあいつほんとアホだなぁと思ったわ。才能も羨ましいくらいの美貌もあんのに、分かってねぇよな。仕事貰えるってどれほど有難いことか。」
「ああ…そうですよね…」
(……でも、俺のせいでもあるし…なんとも言えない…)
「そういえば、葵、今体調はどうなの?」
「あ、体調はもうほぼ治った感じです」
「歩いてしんどいとかも無し?」
「ないですよ。」
「ふーん。」
「……?」
栄人は少しだけ考え込むと、思いついたように呟いた。
「んじゃちょっと出掛けるか。」
「……へ?」
栄人はそういうなり座ったばかりのソファから立ち上がると足早に玄関の方に向かってしまった。
(き、急に…え!?)
葵も部屋から上着を持ち出すと、慌てて後を追った。
高層マンション専用地下の駐車場で栄人の車に乗り込むと、栄人は行先も言わぬまま車を走らせた。
葵はその様子を助手席からただ見ていることしかできなかった。
(……ど、どうすれば…)
車は高層マンションを抜けると、知らない方向へと向かっていた。いつも食べに行ったりしてる方向とは反対方面だ。
しかしながら、この沈黙は辛い。
葵が話を切り出してもいいものなのかと迷っていると、暫くて相手が沈黙が破った。
「最近、どう?学校とか。」
「えっあ…学校は、なんとか順調に通えてます…」
(少しモヤモヤすることはあるけど…それは別に言わなくていいよな。)
「それは良かった。優一の世話、大変だろ?」
「それは…正直慣れました。それにしても優一さん、本当に生活できなくて驚きました。」
「だよなぁ。テレビの前になるとなんでもできるのに、プライベートだと基本、何も出来ないんだよ。あいつ結構良い暮らしして育ったからそれもあるかもなぁ。」
「そ、そうなんですか」
(なるほど……それなら納得。)
「ていうのも親がさ、企業者で大手の社長なんだよな。」
「え…そうなんですか!?」
「そうそう。それで、いつも休日はパーティーとか外食とかだったらしいよ。んで親の誕生日の時も親主催のパーティーを毎年やるし、掃除や洗濯にも家政婦がいてさ、家庭教師も二人つけられてて、優一はめんどくさかったとかだるかったとか言うけど、実家もかなりの豪邸。正直、羨ましいよな。本人は全然そんなふうに思ってないみたいだけど。」
(はっ…だからこの前の親の誕生日の時も、パーティーしてたから、朝まで帰れなかったんだ…そうか、知らなかった……)
「だからあいつ、そういうこともあって結構変わってるだろ?一緒に暮らしててそう思わない?」
「お、思います…」
(ええ、かなり変わってると思います…はい…)
「だから俺、心配になってたんだよねー。もう葵も学校始まったし、なかなか会えないから聞くタイミングもなくてさ、だから昨日これは良い機会だと思って言ったんだ。俺が優一の代わりに面倒みるってこと。」
「そうだったんですね。心配ありがとうございます。でも…生活に関しては大丈夫ですよ。」
「本当?」
「はい。逆によく面倒見てくれてるなぁってところもあるし、家事以外のことでは色々連れてってくれたりしますし、今回のことだってすぐ駆けつけてきてくださいましたし…」
(そういえばもっと前の、あの寄り道も…本当は俺のためだったのかな。)
ふとそう思って、葵は無自覚に顔を赤くしてしまった。
なんでこんな時に、と思うが…そうだとしたら嬉しい。
栄人はその様子を見て、その後前を見て車を走らせながら静かに呟くように言った。
「………確かにあいつは、優しいよ」
「そうですよね」
「変なとこで気を使ってくるし。」
(栄人さんも同じこと思ってるんだ)
「本当、そうですよね。」
「でも好きになったりなんてするなよ。」
「えっ」
思わぬ言葉に葵はそのままの声を漏らしてしまった。
(え、なんで?どうして?)
だって、好きになったりしたらーーーなんて…
つい昨日、そのようなことを自分が言ってしまったばかりだというのに。
葵は色々な感情が追いつかなかった。
葵は胸がドキドキしてくるのを抑え込みながら、冷静を装って聞き返す。
「そ、それはなんでですか?」
「あいつは恋愛ができるようなやつじゃないから。」
栄人は躊躇うことなく即答した。
でもこれは前にも、聞いたことのあるような返答だった。
(確か一番最初の時も…俺と優一さんが付き合ってるのか聞いてきた時も優一さんは付き合えないとかそんなような事…言ってた……でも、なんで?)
葵が何も言えずに黙っていると、栄人が問いただすような口調で訊ねる。
「葵、まさかもう優一のことを好きとかじゃねぇよな?」
「えっ?」
ドキン……
(好きなわけないじゃないですか。)
と言おうとして、心の中のどこかで何か、違和感のようなものがちくりとする。
(あれ…?)
「葵?」
栄人の目線が葵の逸らした顔を見つめる。
(あ、いけない。否定しなきゃ)
「…そ、そんなわけないですよー!ま、前にも言ったじゃないですか。ていうか、俺女の子が好きなんですからっ…」
そう言いながら、納得していない自分がいた。
何故だか、チクチク…する…
「ああ、ーーーそれならよかった。まあ、たしかに。いくらかっこよくても、あんな変態ホモは無理だよなぁ。」
「そうですよ…」
(そうだよ…そうに決まってる、よ)
「じゃあ、大丈夫だな。」
「はい…」
(なのに、どうした俺…まだおかしい。)
栄人は車を右折させると、とある駐車場に車を止めた。
エンジンを切り、栄人につられて葵も降りる。
「ん?…カフェですか?」
「そそ。丁度昼飯時だろ。葵はお腹空いてるか?」
「あ、はい」
「んじゃ良いや。食べようぜ。」
お店に入り窓際の席に案内されると、葵は栄人と向き合って席に座った。
まさかあの俳優の栄人と二人きりで食事する日が来るとは…と前なら純粋に思っただろうが、今、葵の気持ちの中ではそれよりも更に上回る気持ちがあった。
(なんで、優一さんは、恋愛が出来ないんだろう)
思えば葵は、優一の家庭事情も何も知らない。
ただ全国民と同じように、黒瀬優一という存在が俳優であり、栄人と同じように、一人暮らしだった時のプライベートの現状を知ってるだけだ。
優しさもどうして向けられたものなのかわからないし、たまに見せる表情が何を思っているのかも読み取れない時がある。
ただ、あんなに優しくて人思いなことができるし、キスだってあんなに上手いし(そこは関係ないかもしれないが)モテモテなのになんで恋愛ができないのか、気になった。
そしてそれをどうして栄人が言うのかも。
「お前、本当にそれだけで足りるの?」
「はい。大丈夫です」
葵はパンケーキにバターを塗ると、小さく切って一口食べた。
優一が前に、栄人の方が甘党だと言っていたからまさかとは思ったが、やはりここは甘いもの全般のお店だった。
栄人は安心したように「そう。」と軽く呟いてから、頼んでいたパフェを口に含む。
それから暫く二人は黙々と食べ続けた。
別に気まずいわけでもなんでもないのに、胸の中がザワザワする。
「甘いもの、そんなに好きじゃなかったっけ」
「……えっ、あ、いや、好きですよ。」
(ああ、暗い顔してたかな。申し訳ない…)
「そうか。俺の完全なる趣味で付き合わせちゃって悪ぃな。」
「いや、全然……あ、あの今日って何時頃までいらっしゃるんですか?」
「一応16時まで、そのあとは予定あるから。でも、体調も殆ど平気って言ってたし、大丈夫だよな?」
「分かりました。大丈夫です。」
ーーーその後、お店から出ると栄人は再び車を走らせた。
聞くところによると、ドライブが好きらしい。
行き先も決めず、車は都会の道を延々と走っていく。
上京したての時は、このビルが建ち並んだ風景さえも真新しいものに感じていたのに、優一に色々連れていってもらったからか、今ではもうほとんど新鮮な感じがしない。
それは寂しいようで、自分が無事に都会に溶け込めたんだというような、複雑な気持ちだ。
「そういえば、ここの道、優一とよく走ってたなぁ」
「え、そうなんですか」
葵は顔を上げて、周りの景色を見渡す。
高い橋の上で、高いビルやら何やらが下からよく見える。夜だったらとても綺麗だろうなぁーーーと想像できる場所だった。
「そうそう。優一も高校の時に上京してるから、大学生になったら都会の街を運転しまくろうって話になって、練習でここ使ってた。」
「そっか…栄人さんと優一さんて、高校の時からの仲なんですか?」
「いや、中学3年」
「え、そうなんですか?どうやって知り合ったんですか?」
(気になる…)
「んーとね、あいつ中学の時からよくモデルやら芸能事務所やらにスカウトされてて、1度ファッションショーのイベントで優一が一回限りで東京来た時に知り合ったんだよ。」
(中学の時からスカウト…そこでもう既にスタイルと顔整ってたんだな…)
葵は黙って頷く。すると栄人が続けた。
「そんで、ファッションショー終わったあとで皆が自分の名刺なんかを持って、自分の名を売り出したり人脈広げようと話しかけたりしてる中、ずば抜けてイケメンのくせにあいつは端の方でうさぎのぬいぐるみ抱えながら一人でノートに文字ばっか書いてて、さも興味無さそうにしてた。」
「う、うさぎのぬいぐるみ…」
「そうそう。今も部屋に置かれてるあの抱き枕的ぬいぐるみな」
「あ、あれ持ち歩いてたんですか…」
「そう。やばいだろ。なんか知らないけどうさぎのぬいぐるみが好きらしくてさ。まあそんなことはいいんだけど、とにかくノートばっかに集中してて誰かが近くを通っても話しかけないし」
「そ、そうなんですか」
(それにしてもそんな誰とも絡まずノートに文字を書いてばかりとか…)
「演技とか、バラエティにも出まくってる黒瀬優一さんからは想像もつかないですね」
「だろ?今なんかカメラマンが求める前にバッチリポーズ決められるほど仕事覚えも早いし、自分の見せ方もわかってるのにな。」
「でも…その一回切りで、栄人さんは優一さんと連絡も交換して話すようになったんですか?」
「そうだよ。絶対こいつ凄い俳優になるから連絡先聞いとけって親に言われて俺が聞きに行った。」
「え。」
(いや、親に勧められたんかい!)
「んで初めは仕方なくって感じで話してたんだけど、高校がまさかの同じでさ、あいつも俺も同じ事務所に入ったから、話していくうちにめっちゃ仲良くなってた。」
「そうなんですね」
(そっか。栄人さんも、同じ事務所なんだ。)
「おう。だから今では一番の仲なんじゃねぇかな?」
「そうですね、確か優一さんも前に、栄人さんは親友だって言ってました。」
「おお、そうだったのか。」
「はい…」
「まあ、10年以上の付き合いだからな」
「長いですね…」
「うん、だからあいつのことは色々わかるよ」
「そ、そっか…」
ドキン…
(そうだよな。栄人さんは当たり前だけど数ヶ月一緒に暮らした俺なんかよりもよっぽど優一さんのことをよく分かっている。だからこそ、他人の事でも恋愛ができないなんてことも言えたんだ。その意味が俺にはわからないけど…とりあえず、俺がなにか言えることじゃないんだ。)
(だから、間違っても好きになんてならない。)
葵は自分の胸に強く言い聞かせた。
その後暫く栄人に連れられて都会の街並みをドライブしーーー夕方頃に無事に高層マンション地下の駐車場に戻ってきた。
「ここからは、自分で戻れるよな?」
「はい。大丈夫です。あの…今日はありがとうございました。楽しかったです。」
「おう。俺も楽しかったわ。また、機会があったら連れてってやるよ。じゃあーーーあ。まって。」
「え?」
「ずっと前から言いたかったんだが、連絡先教えてくれるか?」
「あっ…はい!」
(そういえば前、栄人さん優一さんにそう言ってたんだっけ。でも優一さんがダメだって言うから、結局交換できなかったんだ。)
栄人は葵と連絡先を交換すると、「そんじゃあな」と言って、車を走らせて行った。
葵はその栄人の車が見えなくなるまで見送ると、自分は家に帰った。
………………
……………………………………
その晩ーーー優一が帰ってきたのはいつもより遅い23時半だった。
流石に葵は先にご飯を食べたが、洗い物をしたり明日の準備をしたりして、まだ起きていた。
「あっ…おかえりなさい。」
「ただいま。あー今日も疲れた…」
優一は帰ってくると、リビングのソファの上に鞄を置いて、テーブルに置かれた夜ご飯を見ると嬉しそうに笑う。
「あーごはん、作ってくれたんだ!作らせるの悪いと思って買ってきてしまったよ。」
「あっ…そうだったんですか。すみません、メールしなくて。」
「ううん、大丈夫。嬉しいよ。」
「か、買ってきたのはどうするんです?…」
「勿論、葵くんの料理が食べたいから、買って来たのは要らない。」
「なっ…勿体ないじゃないですか!」
「葵くんの料理捨てる方が勿体ない。」
「っ……そ、そうですか。」
こういうセリフなんて、いつものことだった。
帰ってきて、テーブルに自分のご飯があるといつも嬉しそうに「今日もありがとう。美味しそうだなぁ」なんて言う。
前まではそんなの聞き流せていたのに、何故なんだろうか。
それさえも今はよく考えてしまう。
そもそもこの人はなんでそんなこと言うんだろう、なんでそんな褒めてくれるんだろう…
それって俺が作った料理だからーーー?
そう考えて、葵はハッとする。
(だめだ、今日栄人さんにも言われただろ…)
でもその消えない疑問が解けるまでは、きっと考えてしまう。
だって、こんなに褒め上手で相手を喜ばすことに手慣れているような人が、恋愛できない人には見えないから。
葵が考え込みながら洗ったコップを拭いているとーーーふと、ご飯を黙々と食べていた優一が手を止めて、訊ねてきた。
「葵くん、今日一日栄人とはどうだった?」
葵はコップを置くと、顔を上げて答える。
「あ…今日は本当に楽しかったですよ。俺が体調もすっかり良くなったから、栄人さんがドライブに連れてってくれて…色々話しました。」
「へぇー。どんな話したの?」
「二人が仲良くなったらきっかけ、とか。」
「あー…そういう話したんだ。他には?」
「家の事とか」
「家の事?」
「なんか、親が偉い人だってこと、聞きました。」
「あー、そっか。葵くんは知らなかったよね。」
「はい。」
「そうかそうかー他には?」
「他はーーー」
ーーー【あいつは恋愛できるようなやつじゃないから】ーーー
「はっ……」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや…他はまあ、景色の話だったりとか…です。」
(これは流石に本人にいえるようなことじゃないよな…ていうか言ったところで、なんだって話だけど…)
「ふーん。そっか。」
沈黙が暫く続いた。
葵はコップを食器棚にしまうと、風呂を洗ってないことを思い出した。
「あ、すみません。お風呂入れてなかったです。今から入れてきますね!」
「葵くん」
「はい?」
「キスしたい」
「にゃあ!?」
ゴチンッ!!
葵は勢いよく壁に頭をぶつけて、床にしゃがみこむ。
「い、いてて…」
「え!?あ、葵くん、どうしたの?いつもの家賃の話だったんだけど…」
「すすす、すみません!そっか!そうだ!!そうでした!」
「葵くん、大丈夫?頭ぶつけてたけど」
「だ、大丈夫ですよ。すみません…。忘れてて」
(あれ、どうした?俺、なんで今、ドキッとした?)
「いいよ。ーーーじゃあ目を瞑って」
「は、はい」
葵は優一に言われる間もなく、優一の真っ直ぐに見つめる色素の薄い瞳から目を逸らすように目を瞑った。
「じゃあーーーするね?」
ドクン…
これはいつもの家賃のキスだ。
今まで、ほぼ毎日してきたことだ。
ドクン…
だから、いつも通りにしてれば終わる。ーーー
優一の唇が、優しく葵の唇に触れて、軽くキスをする。
そして次第に舌を入り込ませーーーいつもみたいにその腕は、葵の腰あたりに回されて、ぐっと引き寄せられる。
「んんっ……ふぁっ…」
ドクン…
葵の口の中を熱い優一の舌が、何もかも絡めとるように掻き回す。
こんなのいつも通りのことだ。
なのに。
何かおかしい。
何かがおかしいことに気づいてしまった。
「ーーー葵くん、終わり。」
「ふぁ…な、長いですよ…」
「そう?本当はもっと長くてもいいけど、今日はこの辺にしといてあげるよ。」
「し、しといてあげるってどういう…」
ふと顔を上げると、優一の顔が近くて、優しくて
葵を見ていた。
(あれ……)
この人って今までもこんなふうに真っ直ぐ俺を見ててくれていたっけ。
そういえばキスの後は嫌で、よく顔を見ていなかったけどーーー
「ーーーん?見つめてきてどうしたの?もしかして、もっと、欲しいとか?」
優一はニヤッと笑みを浮かべる。
それを見て葵はハッとした。
危ない。
「……っ!ち、調子乗らないでくださいよ!そ、そっちがじーっと見てきたんでしょうがっ!!」
「はは、ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。で、お風呂洗ってくれるんだっけ?」
「あ、そ、そうですよっ……もう!変な時に家賃挟まないでください!じ、じゃあ…~~~~~さ、さらばっ!」
葵はそう言い捨てると、バスルームに急いで駆けていった。
「はは、さらばってなにそれ。」
優一は駆けて行った葵を見つめながら、自分の唇を抑えた。
まだ熱を帯びている。
(ああ…)
…………………
「……全く、可愛いなぁ…もう。」
愛しくて、仕方ないあの子の姿だ。
違うことは知ってる、だからこそ僕は欲しい。
ーーー今度こそ絶対に逃がさないよーーー
優一はくるりと背を向けると、自分の部屋に戻った。
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