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第十四話 隠し事
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………………………………
土だらけで汚れた服を払うと、機関車パークを抜けていった先のアイスクリーム屋さんで、いつもの大好きなチョコレートアイスを食べる。
本当にここが大好きなんだねって優しい笑顔を向けてくれる二人の大人。
手を握り返したら、当たり前のように握り返してくれるのが、家族だと思っていた。
「お父さん、お母さん!次はあっち行きたい!」
「こらこら、本当に葵は元気なんだから。」
「じゃああそこまでお父さんと競走しようか!」
「するっ!」
「危ないから気をつけてね。」
「はーい!」
いつものように笑っていた顔は、今思えば確かに俺に似てなかったかもしれない。
いいや、俺が似てなかった。
全部。何もかも。
真夜中、ふと目が覚めた。
家から怒鳴り声がする。
「じゃあなんでこんなことしたのよ!」
「それはお前のせいだろ!」
(お母さん、お父さん…?)
そっと声のするほうを覗くと、そこにはリビングで言い合いをしてる両親の姿があった。
いつもと違う、笑ってない顔。
自分が入る隙なんてまるでない。
その瞬間思った。
ーーーこれは聞いちゃいけないかもしれない。
だけどお母さんが泣いていて、お父さんも怖い顔してる
こんなの見たことない顔
まるで別人みたい
どうして?
なんでだろう?
消えなかった疑問が胸の中を覆い尽くすまでは
きっと、まだ大丈夫だったのかもしれない。
その日から真夜中に目が覚めると、毎晩毎晩リビングで両親が言い合いをしていた。
なんの話しをしてるのかは上手く聞こえなかった。
時にはお母さんが泣き喚いてお父さんと揉み合いになってた。
ガラスの割れる音もした。
目を瞑っても耳を塞いでも何をしてても
その音は耳に強く流れ込んできて
その度に自分はどうしたらいいんだろうって悩んだ
朝になると仲良くて、なのに、僕が眠るとこうなるんだ
どうしよう?助けなきゃーーー
僕が止めたら、なくなるのかな。
考えた、考えた
ずっと考えた
だから、お父さん、お母さん喧嘩しないで。
怖かったけど飛び込んだ
みんな仲良くしなきゃ
みんな、仲良く手を繋ぐんだ
家族だからーーー
あの時の母親の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた
だから
辛いんだって、僕が助けなきゃって
そう思った
そう単純に思ったんだ
「お母さん泣かないで」
声をかけた
お母さんの手は震えてた
だから、握ろうと思った
それだけなのに
「全部あんたのせいよね」
え……?
突然のことに胸がドクドクしてきた
怖かった
「お前やめろ、葵になんてこと言うんだ」
「あなたがそういったんでしょ!?」
「おかあさん…?」
酷く凍りついた目は 僕を見つめていた
「私たちが言い合いしてるのも全部あんたのせいよ!」
手を握ったら、握り返してくれると思っていた
振りほどかれた手の痛みが
全てを雪崩みたいに壊していく
「僕のせい…なの…?」
僕何かしたかな、塗り絵片付けなかったからかな
色々考えたけど わからなくて
いつも優しい笑顔向けてくれてたのに
どうして?
「そうよ…あんたのせいよ!あんたがいるからこうなるのよ!」
「もうそれ以上言うな!!やめろ!!」
「あなたもなんで父親のフリしてるの?自分で葵は俺の子供じゃないって言ったんじゃない!」
え…
「おとう…さん…そんなこと…」
言ったの…?
「違う、葵。お母さんが言ってることは全部嘘だから。おい!なんでそういうこと言うんだよ!」
「もうわたし嫌なのよ!全部嫌!!」
「お母さん、だめだよ。仲直りしようよ」
励ましたかった
泣いてる顔を見るのが辛いから
苦しんでる顔を見るのが辛いから
仲良くして、また遊びランドに行って
アイスクリーム屋さんで大好きなチョコレートを食べて
ずっと楽しく過ごそうってーーー
お母さんもお父さんも
僕のことを愛してくれているんだよね
僕だって、お母さんとお父さんが大好きなんだ
大好きだから。
仲直りしようよーーー!
「おかあさんっ…!」
でもその声は無意味だった
全部全部、無意味だった
「あんたがいるから全部ダメになるのよ」
いやだ。
おかあさん、いかないで。
「迷惑をかけないでよ」
おかあさん…
じゃあ僕はどうしたらいいの
「おかあさーーー」
その呼ぶ声が反射して、耳を劈くような声が響いた。
ーーー葵なんか、産まなければよかった。ーーー
…………
……………………
……………………………
「はっ…………はぁはぁ……」
葵は息苦しさと圧迫感で勢いよく飛び起きた。
体は汗だくで、目からは涙が沢山溢れていた。
それに、体全体が少し震えている。
(嘘だろ…なんでまたこの夢…)
上京してからは見なくなっていたのに。
葵は涙を拭うと、ドクドクと唸る心臓辺りに手を当てて五分ほどゆっくり深呼吸をする。
落ち着くを取り戻すのには前よりもだいぶ時間はかからなくなったが、それでもどこか胸の息苦しさは拭えない。
そういえば今何時だろうーーー?
葵はスマホを覗くと、そこには午前三時と表示されていた。
まだ、こんな真夜中なのに何故だか目が冴えてしまった。
(……とりあえず水でも飲もう)
葵は静かに部屋を出ると、キッチンでコップに水を注いだ。
飲み干すと、嫌な汗がスーッと引いていくような感じがして少しだけ楽になる。
前もこんなふうにして水を何回か飲んで気を落ち着かせていた。
けれど、それだけじゃ正直足りなくて、起きていないとまた同じ夢を見てしまうとわかっていた。
体はまだ微かに、震えてしまう。
リビングの時計の針の音だけが、チッチッと派手に音を立てる。
(もう大丈夫だと思ってたのにな)
真新しい環境に行って、全て心を入れ替えたつもりだった。
でも、それは突然やってきて自分の胸を締付けるような
簡単に払えるようなものじゃない。
許せるような事でもない。
生きてることに責任を感じ続けていた。
(ーーーただ、優一さんには迷惑かけないようにしなきゃ。)
葵は自分の体をグッと両手で抱きしめた。
だってもう誰にも、迷惑はかけたくないから。
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土だらけで汚れた服を払うと、機関車パークを抜けていった先のアイスクリーム屋さんで、いつもの大好きなチョコレートアイスを食べる。
本当にここが大好きなんだねって優しい笑顔を向けてくれる二人の大人。
手を握り返したら、当たり前のように握り返してくれるのが、家族だと思っていた。
「お父さん、お母さん!次はあっち行きたい!」
「こらこら、本当に葵は元気なんだから。」
「じゃああそこまでお父さんと競走しようか!」
「するっ!」
「危ないから気をつけてね。」
「はーい!」
いつものように笑っていた顔は、今思えば確かに俺に似てなかったかもしれない。
いいや、俺が似てなかった。
全部。何もかも。
真夜中、ふと目が覚めた。
家から怒鳴り声がする。
「じゃあなんでこんなことしたのよ!」
「それはお前のせいだろ!」
(お母さん、お父さん…?)
そっと声のするほうを覗くと、そこにはリビングで言い合いをしてる両親の姿があった。
いつもと違う、笑ってない顔。
自分が入る隙なんてまるでない。
その瞬間思った。
ーーーこれは聞いちゃいけないかもしれない。
だけどお母さんが泣いていて、お父さんも怖い顔してる
こんなの見たことない顔
まるで別人みたい
どうして?
なんでだろう?
消えなかった疑問が胸の中を覆い尽くすまでは
きっと、まだ大丈夫だったのかもしれない。
その日から真夜中に目が覚めると、毎晩毎晩リビングで両親が言い合いをしていた。
なんの話しをしてるのかは上手く聞こえなかった。
時にはお母さんが泣き喚いてお父さんと揉み合いになってた。
ガラスの割れる音もした。
目を瞑っても耳を塞いでも何をしてても
その音は耳に強く流れ込んできて
その度に自分はどうしたらいいんだろうって悩んだ
朝になると仲良くて、なのに、僕が眠るとこうなるんだ
どうしよう?助けなきゃーーー
僕が止めたら、なくなるのかな。
考えた、考えた
ずっと考えた
だから、お父さん、お母さん喧嘩しないで。
怖かったけど飛び込んだ
みんな仲良くしなきゃ
みんな、仲良く手を繋ぐんだ
家族だからーーー
あの時の母親の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた
だから
辛いんだって、僕が助けなきゃって
そう思った
そう単純に思ったんだ
「お母さん泣かないで」
声をかけた
お母さんの手は震えてた
だから、握ろうと思った
それだけなのに
「全部あんたのせいよね」
え……?
突然のことに胸がドクドクしてきた
怖かった
「お前やめろ、葵になんてこと言うんだ」
「あなたがそういったんでしょ!?」
「おかあさん…?」
酷く凍りついた目は 僕を見つめていた
「私たちが言い合いしてるのも全部あんたのせいよ!」
手を握ったら、握り返してくれると思っていた
振りほどかれた手の痛みが
全てを雪崩みたいに壊していく
「僕のせい…なの…?」
僕何かしたかな、塗り絵片付けなかったからかな
色々考えたけど わからなくて
いつも優しい笑顔向けてくれてたのに
どうして?
「そうよ…あんたのせいよ!あんたがいるからこうなるのよ!」
「もうそれ以上言うな!!やめろ!!」
「あなたもなんで父親のフリしてるの?自分で葵は俺の子供じゃないって言ったんじゃない!」
え…
「おとう…さん…そんなこと…」
言ったの…?
「違う、葵。お母さんが言ってることは全部嘘だから。おい!なんでそういうこと言うんだよ!」
「もうわたし嫌なのよ!全部嫌!!」
「お母さん、だめだよ。仲直りしようよ」
励ましたかった
泣いてる顔を見るのが辛いから
苦しんでる顔を見るのが辛いから
仲良くして、また遊びランドに行って
アイスクリーム屋さんで大好きなチョコレートを食べて
ずっと楽しく過ごそうってーーー
お母さんもお父さんも
僕のことを愛してくれているんだよね
僕だって、お母さんとお父さんが大好きなんだ
大好きだから。
仲直りしようよーーー!
「おかあさんっ…!」
でもその声は無意味だった
全部全部、無意味だった
「あんたがいるから全部ダメになるのよ」
いやだ。
おかあさん、いかないで。
「迷惑をかけないでよ」
おかあさん…
じゃあ僕はどうしたらいいの
「おかあさーーー」
その呼ぶ声が反射して、耳を劈くような声が響いた。
ーーー葵なんか、産まなければよかった。ーーー
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「はっ…………はぁはぁ……」
葵は息苦しさと圧迫感で勢いよく飛び起きた。
体は汗だくで、目からは涙が沢山溢れていた。
それに、体全体が少し震えている。
(嘘だろ…なんでまたこの夢…)
上京してからは見なくなっていたのに。
葵は涙を拭うと、ドクドクと唸る心臓辺りに手を当てて五分ほどゆっくり深呼吸をする。
落ち着くを取り戻すのには前よりもだいぶ時間はかからなくなったが、それでもどこか胸の息苦しさは拭えない。
そういえば今何時だろうーーー?
葵はスマホを覗くと、そこには午前三時と表示されていた。
まだ、こんな真夜中なのに何故だか目が冴えてしまった。
(……とりあえず水でも飲もう)
葵は静かに部屋を出ると、キッチンでコップに水を注いだ。
飲み干すと、嫌な汗がスーッと引いていくような感じがして少しだけ楽になる。
前もこんなふうにして水を何回か飲んで気を落ち着かせていた。
けれど、それだけじゃ正直足りなくて、起きていないとまた同じ夢を見てしまうとわかっていた。
体はまだ微かに、震えてしまう。
リビングの時計の針の音だけが、チッチッと派手に音を立てる。
(もう大丈夫だと思ってたのにな)
真新しい環境に行って、全て心を入れ替えたつもりだった。
でも、それは突然やってきて自分の胸を締付けるような
簡単に払えるようなものじゃない。
許せるような事でもない。
生きてることに責任を感じ続けていた。
(ーーーただ、優一さんには迷惑かけないようにしなきゃ。)
葵は自分の体をグッと両手で抱きしめた。
だってもう誰にも、迷惑はかけたくないから。
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