9 / 62
1
第七話 休日
しおりを挟む
ーーーあれから6日が経った。
葵は薄い瞼の向こう側で薄く光が射してきたのを感じ、目を開ける。
ここでの暮らしもほんの少しは慣れてきた。
相変わらず優一とは家賃のために毎日キスをする羽目になっていて辛い訳だが、学校にはそういったこともバレていないし、葵はとにかくそれどころではなかった。
(本当に忙しい1週間だったな....)
高校生最初の1週間は、葵が思っていた以上に目まぐるしい期間だった。
とにかく名門校らしく、新入生への勉強ガイダンスが立て込んでいた。
それに数々の委員会やら部活動紹介やらも先輩方が超本気モードで、内容もハードそうだったし、なのに来週のうちには選ばないといけないらしく、学級委員も来週に決めなきゃいけないことになっていた。
しかもそれと同時に授業も始まるので、尚更自分が追いついていけるか心配だった。
(まあ.....友達は少しできたからいいけど...。)
クラスメイトは騒がしい奴らが多くて正直関わりたくないとも思っていたが、意外にも話が合ったりするのだった。けれど連絡先を聞く程じゃなかったし、まだ会って挨拶するだけ。
それに葵が話しかけられるまで待っている側なので、クラスで行う交流が何度あってもあまり進展は見られなかった。
とりあえず葵は、明と行動することが多くなっていたので、1人じゃなければいいや。ーーーという考えを持つことにした。
「ふぁあ.....」
葵は白くて高い天井を眺めながら大きく伸びをした。
壁掛けの時計に目をやると、時刻は8時過ぎだった。
今日は学校が始まって初めてのお休みの日。
葵はこのままのんびりするのもいいけれど、思えば優一のスケジュールはどうなっているのかわからない。
(あー優一さん起こした方がいいのかなぁ)
刻一刻と時間が過ぎていく中、ぼーっとした時間を過ごしていると.......
ピンポーン。
家にチャイムが響きわたった。
(あ......もしかして栄人さんかな)
葵は自分の部屋から出て玄関へと向かう。
ドアホンの電源を入れると、そこにはフードを被り、ラフなズボンを履いた栄人さんの姿があった。
見る限り打ち合わせとか仕事に行くような感じではない。
【おーい。葵いるかー!】
(えっ.....俺?)
「いまーす!あ、今開けますね」
葵が扉を開けると、栄人はクールな笑顔でニカッと歯を見せた。
「よう、葵。1週間ぶりだな。」
「栄人さんおはようございます。1週間ぶりですね。」
「優一は相変わらず寝てるのか?」
「あ.....はい。昨日も寝るの遅かったみたいです。」
「あーそうなんだ。でーーー....あのさ。」
栄人はさ程優一のことには反応を示さず、リビングまで来ると、振り返って葵の方に顔を向けた。
栄人の瞳は特徴的で、キリッとした目力のある猫目型だった。
だからなのか、見つめられるだけでなにか自分が悪いことをしたのかーーーと問い詰められている気分になる。
「ど、どうしたんですか.....?」
「お前、優一とは一体どういう馴れ初めなの?どっちから告白したの?」
「ふぇ!?」
あまりにも唐突な言葉に葵は思わず裏返ったような声を出してしまった。
(え、え!!まって馴れ初め!?告白!?なんで急に......あっそうだこの人!そういえば勘違いしてるままなんだった!)
葵はこの前優一に言われたことを思い出して、急いで誤解を解くことにした。
「あ、あの!その事についてなんですけど....」
「ん?」
「前にも言った通り、俺のおばさんがお願いした関係とかもあって俺は本当に、そういう恋愛的な意味でここにいるわけじゃないんです。ただの居候なんです!だから付き合ってないです。本当に。」
「え?そうなの?じゃあキスもしてないの?」
ギクッ.....
「キッ.......は、はい!してません!」
「でも優一が葵とはイチャイチャ同棲中って言ってたけど。」
「え。」
ーーーイチャイチャ同棲中?ーーー
(うおおおお!優一さん何適当なことを言ってんだ!?誤解させてたの優一さんだったんじゃんか!!俺は家賃のために毎回キスをさせられてるというのに!あのホモ......!)
「違うの?」
「断じてっ違います!!本当に!多分それ悪ふざけですっ」
「あー、まあ.....それならいいんだけどね。優一が人と付き合うなんて有り得ないと思ったからそう聞いた時本当にびっくりしたわ。」
「えっ....そうなんですか?」
(あ、有り得ないの?)
「まあな。あいつ過去に色々あったし絶対付き合うとかしたら.....」
「え、過去に何があったんですか?」
(そういえば優一さんの過去とか知らない....)
独り言のように呟いた栄人の言葉を葵が聞き返すと、栄人は我に返ったように顔を上げた。
「あっ.....わりぃ今のはなんでもない。ほ、ほら....あいつ、あんなモテモテなのにスキャンダルとかないだろ?ホモだからってのもあるけど。」
「あぁ...まあ確かにスキャンダルとかは聞いたことはないですけど......」
(さっきのはなんだったんだろう?)
「だろ?だから付き合うとか絶対ないよなーって思ってさ。長年見てきた俺からしたらね。」
(そうなのかな....?優一さんのことはまだ正直よくわからないし謎だけど....でも俺、最初の時めっちゃ言い寄られたし、好きになっちゃいそうとか言われたし....嘘は言わないって言われたんだよなぁ。まあ鵜呑みにはしてないけど。)
それに、栄人さんには言えないけれど住む代わりにキスやセクハラだってされているのだ。
というか、この6日間でさえ本当に散々だったのだ。
一昨日なんかお酒飲んでいい気になって胸も触ってきたし....。
初日以上のことはされてないけど今後は油断できないという状況に置かれているのだ。
「まあぶっちゃけ、優一が葵のことをどう思ってるか俺にはわからないけどな。変なことになってなければいいってだけの話。」
(すみません栄人さん....それは既に手遅れです....。)
「ーーーというか栄人さん、今日は優一さんを仕事に連れていくために来たわけじゃないんですよね?」
「ああーーー?うん。葵と話そーって思ってきた。」
「えっ」
(俺!?)
「いや、いつも休日の暇な時はここに来て優一と食べに行ったりするんだけどさ、そういや葵もいるよなーと思って。」
「あ.....そうなんですね。」
「うん。だからこの機会に葵と仲良くなっちゃおうかなーって。」
「え...!それは嬉しいです!!ぜひ、仲良くなってください!」
(まさかこの東栄人さんに仲良くなりたいって言われるなんて!嬉しい!!嬉しすぎる!!)
「おう!ーーーんじゃ、いきなりだけど質問していい?」
「どうぞ!!」
「葵はホモじゃないの?」
「ブッ.......!!」
葵は突然の質問に面食らってガタッと肩を落とした。
(いやなんでだよおおおお!!!仲良くなりたいって言われて1番初めの質問がそれとか虚しすぎるんですけどおお!)
葵は心の中で叫びながら、気を取り直して答えた。
「いや...俺は男の人好きじゃないです。」
「あ、そうなんだ。んじゃ続いての質問ね。今歳いくつ?」
「15です....」
「え、わっか!!恋愛的な関係はないって言ってたけど優一と一緒で本当に大丈夫なのか...」
「.....大丈夫だと思います。」
(もう手遅れです...)
「んじゃ続いてーーー葵はなんでここに居候することになったの?」
「え、えっと....東京の高校に行くために上京することになって、でも1人だと危ないからってことでおばさんの知り合いの息子が黒瀬優一さんだったからそこで居候って形になった、みたいな感じです。」
「へぇー。ーーーんじゃ続いての質問ーーー」
(え、なんかめっちゃ聞いてくる....優一さんの親友だから、かな??)
「俺の事って、どう思う?」
「え?どうって....」
「俳優として。」
「あ!ああ.....!俺、家出した猫ってドラマを見てたんですけど、栄人さんの泣くシーンとか怒鳴るシーンとかに凄く感動して本当に迫力ある演技が輝いているかっこいい俳優さんだなぁって思ってました!あと、おばさんが見てた影響で、1年前の栄人さん主演の大河ドラマも見てたんですけど、演技一つ一つの仕草がかっこよかったです!」
「.......ほーん。」
「え?」
栄人は葵の言葉に、少し考え込むように上を向いた。ーーーが、やがて葵の方を見ると口を開いた。
「んじゃ次の質問。」
(いや何も無いんかい!!!あんなに喋ったのに!)
「まだーーー葵の苗字、聞いてなかったよな。」
「あ、秋元です」
「おっけー。以上。」
「あ、お、終わりですか?」
(今思ったけど栄人さん絶対質問する順番間違えてるよな....)
「終わり。これである程度葵のことがわかったわ。てことで改めてよろしくな!」
「あ、よ、よろしくお願いします!」
葵は栄人に差し出された手を握り返して握手をした。
なんだかよく分からないけど、とりあえず仲良くなれた(?)らしい。
「そんじゃ、優一を起こすかー」
「そうですね。もう9時過ぎですし....」
優一の部屋のドアを開けると、相変わらず男のポスターが張り巡らされた部屋の真ん中のベッドで、うさぎの抱き枕を片手にスヤスヤと眠っていた。
「大の大人が15歳にこんなとこ見られて恥ずかしくないんだろうか....」
栄人の言葉に葵も静かに頷く。
「おい!優一!起きろ!!」
栄人がこの前のように布団をガッと掴むと、優一の瞳が薄く開いた。
けれど視界の向こうの明るさにはまだ慣れないのか、顔を顰めるとうつ伏せになってしまった。
「.....なに.....」
「起きやがれって、いい加減!」
「無理.....。スースー」
(あ....寝た....)
「無理じゃねぇよ。おいまた寝るな!!」
「相変わらず朝起きないですね.....」
「だな....。」
結局優一が目を覚ましたのはそれから3時間も後のことだった。
その間葵と栄人はリビングでずっと話していた。
栄人は思った以上に話しやすくて面白い人だった。
「はぁ....おはよう。」
リビングの右の部屋の扉が開かれると、眠たそうに目を擦りながら優一が現れた。
「ったく、おせーよ!!起きるのが!」
「なんだよ....今日は休みだろう?休みくらい昼まで寝たってなんの罪にもならないと思うんだけど。ていうか.....2人、仲良くなったの?」
「おう!優一が寝てる間にな!」
「あ、はい。仲良くさせていただきます。」
「それは良かったね。」
「あ、あとお前、葵から聞いたぞ!毎日朝ごはんと夜ご飯作ってお風呂も入れて、洗濯もしてるって!お前なにさせてんだよ!」
「はぁ....それはお金貰わない代わりの家賃だよ。何か文句あるか。」
「家賃の代わりったってなぁ、お前も少しは家事が出来るようにならねぇと....」
「ところでパフェ食べに行きたい。」
「おい人の話を聞け!」
「葵くん、今日は上京して初めての休日だしそいつ置いてパフェ食べに行こうか。」
「えっ.....あ、はい!!」
(パフェ....食べたい!)
「ということで栄人、またな。」
「おい!まて!俺も連れていけ!!」
「やだ。」
「いつも一緒にいってただろうが!」
「いや、葵くんと行くから。」
「ん、じゃあ.....お、お金払うから!!」
「お、言ったな?よろしく。」
(こ、この人......)
「お前マジで....お前に貢ぐファンに謝れ.....」
栄人の言葉に葵は静かに頷いた。
.....................
ーーーということで、今俺はイケメン俳優黒瀬優一と東栄人に挟まれながら超可愛らしいパフェを食べているのである。
(上京して初めての休日がこれか.....!)
なんというか、折角の休日だし東京らしい可愛いパフェをご馳走して貰えるなんて凄く嬉しい。嬉しいんだけど.....
上京してから優一さんの影響で、ほぼ毎日甘いものを食べている気がするのである。
大きな冷蔵庫に入っていたあのプリン達も気づけば夕食の後に食べるようになっていた。
(俺このままだと確実に3月後にはデブになってそう.....)
それに栄人も優一と同じくらいの甘党らしく、先程からバンバン抹茶アイスを頼んでいるのだ。
「ああ、やはりチョコレートパフェはいくつ食べても飽きないね。本当にこの世がチョコレートとプリンで埋まればいいと思う。」
「いや、抹茶だろ。抹茶こそ正義だからな。」
「お前はチョコレートの良さをわかっていない。」
「お前は日本人の心を忘れつつあるぞ。」
(し、しかもなんかくだらない言い合いしてるし。)
そんな言い合いを耳に挟みながら、葵はチョコレートでもなく、抹茶でもなく、苺が盛られた小さなパフェを静かに口に含んだ。
その瞬間酸味とクリームなどの甘さが絡まって、口の中でとろける。
(美味しい......)
あれからまた3人は何件かのお店に寄って、パンケーキとソフトクリームを食べることになった。
栄人の奢りということと、葵に東京の甘いものを食べて欲しいということで色々なお店を紹介してくれた訳だがーーー葵は後半からただただ気持ち悪くなっただけであった。
それで家に帰る頃には、葵のお腹はいっぱいでソファから動けなくなっていた。
「葵くん、今日は連れ回すような形になってごめんね。」
「だ、大丈夫です。あとご馳走様です。こんなに食べたの久々で.....栄人さんと優一さんって出掛けるといつも、こんな甘いものだけって感じなんですか....?」
「うん。まあ実際は僕よりも栄人の方が甘いものが好きだからね。」
「え、ええ....そうなんですか。」
「うん。....楽しめた?」
「あ、はい。それは本当に....楽しかったです。」
「良かった。ーーーそれにしても葵くん、栄人に気に入られちゃったみたいだね。」
「え、そうなんですか?」
「うん、解散した後すぐ、栄人から葵くんの連絡先教えろってメッセージ来たから。」
「えぇ!嬉しい!」
「でも、教えないけどね。」
「えっ.....なんでですか?」
「栄人は何やらかすかわからないから」
「優一さんがそれを言いますか....」
「ーーー葵くん。」
「.....って、はい?」
「キスしようか。」
「ふぇ!?」
(え!急に何!?)
「ん?あ、今日の家賃分のね」
「あっ、な、なんだ。そう言ってくださいよ。ビックリするから!!」
「ふふ、葵くん、可愛いね。」
「.....だから本当に、可愛くないです。」
「ほらこっち向いて。」
「......ん」
(ていうか俺、家賃のためとか言ってても傍から見たら男のキスを受け入れてるホモだよな......)
「受け入れるのが早いね。葵くんて。」
「えっ.......い、いやもう....諦めてるだけです。」
「なにを?」
「住むためだからこれは仕方ないって。」
「はは、そうなの?」
「そうです......あ、あと栄人さんに変な事言うのはやめてください。」
「変なこと?」
「イチャイチャ同棲中ってなんですかそれ。」
「葵くん、喋ってると舌入れるよ?」
「っ.......じゃあ早くしてください」
「え?早くキスがしたいの?」
「ちがっ......顔向けてるんですから早くってことです!」
(優一さんの背高いから首痛いんだよ!!)
優一に顔を向けるよう言われて首を上げていただけに、首を痛めやすくなったのだった。
「ふふっ.....はいはい。ごめんね。」
優一はそんな姿を楽しそうに笑って見つめてから、葵の唇にキスをした。
そして葵はーーー心の中で悲痛な思いを浮かべながらも、今日も優一にキスをされるのであった。
葵は薄い瞼の向こう側で薄く光が射してきたのを感じ、目を開ける。
ここでの暮らしもほんの少しは慣れてきた。
相変わらず優一とは家賃のために毎日キスをする羽目になっていて辛い訳だが、学校にはそういったこともバレていないし、葵はとにかくそれどころではなかった。
(本当に忙しい1週間だったな....)
高校生最初の1週間は、葵が思っていた以上に目まぐるしい期間だった。
とにかく名門校らしく、新入生への勉強ガイダンスが立て込んでいた。
それに数々の委員会やら部活動紹介やらも先輩方が超本気モードで、内容もハードそうだったし、なのに来週のうちには選ばないといけないらしく、学級委員も来週に決めなきゃいけないことになっていた。
しかもそれと同時に授業も始まるので、尚更自分が追いついていけるか心配だった。
(まあ.....友達は少しできたからいいけど...。)
クラスメイトは騒がしい奴らが多くて正直関わりたくないとも思っていたが、意外にも話が合ったりするのだった。けれど連絡先を聞く程じゃなかったし、まだ会って挨拶するだけ。
それに葵が話しかけられるまで待っている側なので、クラスで行う交流が何度あってもあまり進展は見られなかった。
とりあえず葵は、明と行動することが多くなっていたので、1人じゃなければいいや。ーーーという考えを持つことにした。
「ふぁあ.....」
葵は白くて高い天井を眺めながら大きく伸びをした。
壁掛けの時計に目をやると、時刻は8時過ぎだった。
今日は学校が始まって初めてのお休みの日。
葵はこのままのんびりするのもいいけれど、思えば優一のスケジュールはどうなっているのかわからない。
(あー優一さん起こした方がいいのかなぁ)
刻一刻と時間が過ぎていく中、ぼーっとした時間を過ごしていると.......
ピンポーン。
家にチャイムが響きわたった。
(あ......もしかして栄人さんかな)
葵は自分の部屋から出て玄関へと向かう。
ドアホンの電源を入れると、そこにはフードを被り、ラフなズボンを履いた栄人さんの姿があった。
見る限り打ち合わせとか仕事に行くような感じではない。
【おーい。葵いるかー!】
(えっ.....俺?)
「いまーす!あ、今開けますね」
葵が扉を開けると、栄人はクールな笑顔でニカッと歯を見せた。
「よう、葵。1週間ぶりだな。」
「栄人さんおはようございます。1週間ぶりですね。」
「優一は相変わらず寝てるのか?」
「あ.....はい。昨日も寝るの遅かったみたいです。」
「あーそうなんだ。でーーー....あのさ。」
栄人はさ程優一のことには反応を示さず、リビングまで来ると、振り返って葵の方に顔を向けた。
栄人の瞳は特徴的で、キリッとした目力のある猫目型だった。
だからなのか、見つめられるだけでなにか自分が悪いことをしたのかーーーと問い詰められている気分になる。
「ど、どうしたんですか.....?」
「お前、優一とは一体どういう馴れ初めなの?どっちから告白したの?」
「ふぇ!?」
あまりにも唐突な言葉に葵は思わず裏返ったような声を出してしまった。
(え、え!!まって馴れ初め!?告白!?なんで急に......あっそうだこの人!そういえば勘違いしてるままなんだった!)
葵はこの前優一に言われたことを思い出して、急いで誤解を解くことにした。
「あ、あの!その事についてなんですけど....」
「ん?」
「前にも言った通り、俺のおばさんがお願いした関係とかもあって俺は本当に、そういう恋愛的な意味でここにいるわけじゃないんです。ただの居候なんです!だから付き合ってないです。本当に。」
「え?そうなの?じゃあキスもしてないの?」
ギクッ.....
「キッ.......は、はい!してません!」
「でも優一が葵とはイチャイチャ同棲中って言ってたけど。」
「え。」
ーーーイチャイチャ同棲中?ーーー
(うおおおお!優一さん何適当なことを言ってんだ!?誤解させてたの優一さんだったんじゃんか!!俺は家賃のために毎回キスをさせられてるというのに!あのホモ......!)
「違うの?」
「断じてっ違います!!本当に!多分それ悪ふざけですっ」
「あー、まあ.....それならいいんだけどね。優一が人と付き合うなんて有り得ないと思ったからそう聞いた時本当にびっくりしたわ。」
「えっ....そうなんですか?」
(あ、有り得ないの?)
「まあな。あいつ過去に色々あったし絶対付き合うとかしたら.....」
「え、過去に何があったんですか?」
(そういえば優一さんの過去とか知らない....)
独り言のように呟いた栄人の言葉を葵が聞き返すと、栄人は我に返ったように顔を上げた。
「あっ.....わりぃ今のはなんでもない。ほ、ほら....あいつ、あんなモテモテなのにスキャンダルとかないだろ?ホモだからってのもあるけど。」
「あぁ...まあ確かにスキャンダルとかは聞いたことはないですけど......」
(さっきのはなんだったんだろう?)
「だろ?だから付き合うとか絶対ないよなーって思ってさ。長年見てきた俺からしたらね。」
(そうなのかな....?優一さんのことはまだ正直よくわからないし謎だけど....でも俺、最初の時めっちゃ言い寄られたし、好きになっちゃいそうとか言われたし....嘘は言わないって言われたんだよなぁ。まあ鵜呑みにはしてないけど。)
それに、栄人さんには言えないけれど住む代わりにキスやセクハラだってされているのだ。
というか、この6日間でさえ本当に散々だったのだ。
一昨日なんかお酒飲んでいい気になって胸も触ってきたし....。
初日以上のことはされてないけど今後は油断できないという状況に置かれているのだ。
「まあぶっちゃけ、優一が葵のことをどう思ってるか俺にはわからないけどな。変なことになってなければいいってだけの話。」
(すみません栄人さん....それは既に手遅れです....。)
「ーーーというか栄人さん、今日は優一さんを仕事に連れていくために来たわけじゃないんですよね?」
「ああーーー?うん。葵と話そーって思ってきた。」
「えっ」
(俺!?)
「いや、いつも休日の暇な時はここに来て優一と食べに行ったりするんだけどさ、そういや葵もいるよなーと思って。」
「あ.....そうなんですね。」
「うん。だからこの機会に葵と仲良くなっちゃおうかなーって。」
「え...!それは嬉しいです!!ぜひ、仲良くなってください!」
(まさかこの東栄人さんに仲良くなりたいって言われるなんて!嬉しい!!嬉しすぎる!!)
「おう!ーーーんじゃ、いきなりだけど質問していい?」
「どうぞ!!」
「葵はホモじゃないの?」
「ブッ.......!!」
葵は突然の質問に面食らってガタッと肩を落とした。
(いやなんでだよおおおお!!!仲良くなりたいって言われて1番初めの質問がそれとか虚しすぎるんですけどおお!)
葵は心の中で叫びながら、気を取り直して答えた。
「いや...俺は男の人好きじゃないです。」
「あ、そうなんだ。んじゃ続いての質問ね。今歳いくつ?」
「15です....」
「え、わっか!!恋愛的な関係はないって言ってたけど優一と一緒で本当に大丈夫なのか...」
「.....大丈夫だと思います。」
(もう手遅れです...)
「んじゃ続いてーーー葵はなんでここに居候することになったの?」
「え、えっと....東京の高校に行くために上京することになって、でも1人だと危ないからってことでおばさんの知り合いの息子が黒瀬優一さんだったからそこで居候って形になった、みたいな感じです。」
「へぇー。ーーーんじゃ続いての質問ーーー」
(え、なんかめっちゃ聞いてくる....優一さんの親友だから、かな??)
「俺の事って、どう思う?」
「え?どうって....」
「俳優として。」
「あ!ああ.....!俺、家出した猫ってドラマを見てたんですけど、栄人さんの泣くシーンとか怒鳴るシーンとかに凄く感動して本当に迫力ある演技が輝いているかっこいい俳優さんだなぁって思ってました!あと、おばさんが見てた影響で、1年前の栄人さん主演の大河ドラマも見てたんですけど、演技一つ一つの仕草がかっこよかったです!」
「.......ほーん。」
「え?」
栄人は葵の言葉に、少し考え込むように上を向いた。ーーーが、やがて葵の方を見ると口を開いた。
「んじゃ次の質問。」
(いや何も無いんかい!!!あんなに喋ったのに!)
「まだーーー葵の苗字、聞いてなかったよな。」
「あ、秋元です」
「おっけー。以上。」
「あ、お、終わりですか?」
(今思ったけど栄人さん絶対質問する順番間違えてるよな....)
「終わり。これである程度葵のことがわかったわ。てことで改めてよろしくな!」
「あ、よ、よろしくお願いします!」
葵は栄人に差し出された手を握り返して握手をした。
なんだかよく分からないけど、とりあえず仲良くなれた(?)らしい。
「そんじゃ、優一を起こすかー」
「そうですね。もう9時過ぎですし....」
優一の部屋のドアを開けると、相変わらず男のポスターが張り巡らされた部屋の真ん中のベッドで、うさぎの抱き枕を片手にスヤスヤと眠っていた。
「大の大人が15歳にこんなとこ見られて恥ずかしくないんだろうか....」
栄人の言葉に葵も静かに頷く。
「おい!優一!起きろ!!」
栄人がこの前のように布団をガッと掴むと、優一の瞳が薄く開いた。
けれど視界の向こうの明るさにはまだ慣れないのか、顔を顰めるとうつ伏せになってしまった。
「.....なに.....」
「起きやがれって、いい加減!」
「無理.....。スースー」
(あ....寝た....)
「無理じゃねぇよ。おいまた寝るな!!」
「相変わらず朝起きないですね.....」
「だな....。」
結局優一が目を覚ましたのはそれから3時間も後のことだった。
その間葵と栄人はリビングでずっと話していた。
栄人は思った以上に話しやすくて面白い人だった。
「はぁ....おはよう。」
リビングの右の部屋の扉が開かれると、眠たそうに目を擦りながら優一が現れた。
「ったく、おせーよ!!起きるのが!」
「なんだよ....今日は休みだろう?休みくらい昼まで寝たってなんの罪にもならないと思うんだけど。ていうか.....2人、仲良くなったの?」
「おう!優一が寝てる間にな!」
「あ、はい。仲良くさせていただきます。」
「それは良かったね。」
「あ、あとお前、葵から聞いたぞ!毎日朝ごはんと夜ご飯作ってお風呂も入れて、洗濯もしてるって!お前なにさせてんだよ!」
「はぁ....それはお金貰わない代わりの家賃だよ。何か文句あるか。」
「家賃の代わりったってなぁ、お前も少しは家事が出来るようにならねぇと....」
「ところでパフェ食べに行きたい。」
「おい人の話を聞け!」
「葵くん、今日は上京して初めての休日だしそいつ置いてパフェ食べに行こうか。」
「えっ.....あ、はい!!」
(パフェ....食べたい!)
「ということで栄人、またな。」
「おい!まて!俺も連れていけ!!」
「やだ。」
「いつも一緒にいってただろうが!」
「いや、葵くんと行くから。」
「ん、じゃあ.....お、お金払うから!!」
「お、言ったな?よろしく。」
(こ、この人......)
「お前マジで....お前に貢ぐファンに謝れ.....」
栄人の言葉に葵は静かに頷いた。
.....................
ーーーということで、今俺はイケメン俳優黒瀬優一と東栄人に挟まれながら超可愛らしいパフェを食べているのである。
(上京して初めての休日がこれか.....!)
なんというか、折角の休日だし東京らしい可愛いパフェをご馳走して貰えるなんて凄く嬉しい。嬉しいんだけど.....
上京してから優一さんの影響で、ほぼ毎日甘いものを食べている気がするのである。
大きな冷蔵庫に入っていたあのプリン達も気づけば夕食の後に食べるようになっていた。
(俺このままだと確実に3月後にはデブになってそう.....)
それに栄人も優一と同じくらいの甘党らしく、先程からバンバン抹茶アイスを頼んでいるのだ。
「ああ、やはりチョコレートパフェはいくつ食べても飽きないね。本当にこの世がチョコレートとプリンで埋まればいいと思う。」
「いや、抹茶だろ。抹茶こそ正義だからな。」
「お前はチョコレートの良さをわかっていない。」
「お前は日本人の心を忘れつつあるぞ。」
(し、しかもなんかくだらない言い合いしてるし。)
そんな言い合いを耳に挟みながら、葵はチョコレートでもなく、抹茶でもなく、苺が盛られた小さなパフェを静かに口に含んだ。
その瞬間酸味とクリームなどの甘さが絡まって、口の中でとろける。
(美味しい......)
あれからまた3人は何件かのお店に寄って、パンケーキとソフトクリームを食べることになった。
栄人の奢りということと、葵に東京の甘いものを食べて欲しいということで色々なお店を紹介してくれた訳だがーーー葵は後半からただただ気持ち悪くなっただけであった。
それで家に帰る頃には、葵のお腹はいっぱいでソファから動けなくなっていた。
「葵くん、今日は連れ回すような形になってごめんね。」
「だ、大丈夫です。あとご馳走様です。こんなに食べたの久々で.....栄人さんと優一さんって出掛けるといつも、こんな甘いものだけって感じなんですか....?」
「うん。まあ実際は僕よりも栄人の方が甘いものが好きだからね。」
「え、ええ....そうなんですか。」
「うん。....楽しめた?」
「あ、はい。それは本当に....楽しかったです。」
「良かった。ーーーそれにしても葵くん、栄人に気に入られちゃったみたいだね。」
「え、そうなんですか?」
「うん、解散した後すぐ、栄人から葵くんの連絡先教えろってメッセージ来たから。」
「えぇ!嬉しい!」
「でも、教えないけどね。」
「えっ.....なんでですか?」
「栄人は何やらかすかわからないから」
「優一さんがそれを言いますか....」
「ーーー葵くん。」
「.....って、はい?」
「キスしようか。」
「ふぇ!?」
(え!急に何!?)
「ん?あ、今日の家賃分のね」
「あっ、な、なんだ。そう言ってくださいよ。ビックリするから!!」
「ふふ、葵くん、可愛いね。」
「.....だから本当に、可愛くないです。」
「ほらこっち向いて。」
「......ん」
(ていうか俺、家賃のためとか言ってても傍から見たら男のキスを受け入れてるホモだよな......)
「受け入れるのが早いね。葵くんて。」
「えっ.......い、いやもう....諦めてるだけです。」
「なにを?」
「住むためだからこれは仕方ないって。」
「はは、そうなの?」
「そうです......あ、あと栄人さんに変な事言うのはやめてください。」
「変なこと?」
「イチャイチャ同棲中ってなんですかそれ。」
「葵くん、喋ってると舌入れるよ?」
「っ.......じゃあ早くしてください」
「え?早くキスがしたいの?」
「ちがっ......顔向けてるんですから早くってことです!」
(優一さんの背高いから首痛いんだよ!!)
優一に顔を向けるよう言われて首を上げていただけに、首を痛めやすくなったのだった。
「ふふっ.....はいはい。ごめんね。」
優一はそんな姿を楽しそうに笑って見つめてから、葵の唇にキスをした。
そして葵はーーー心の中で悲痛な思いを浮かべながらも、今日も優一にキスをされるのであった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる