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第六話 いちにちめ。

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昨日は無事に入学式を終えーーー葵はいよいよ東京の高校生活1日目を迎えた。

しかし、そんな輝かしいスタートもいつまで経ってもグダグダと寝ている優一のせいで散々な始まり方となった。
結局優一は起きることなく、葵は朝ご飯だけ用意しておいて学校へと向かった。

(優一さん本当に朝弱いんだなぁ.....まあ仕事があればまたあの人が直に起こしに行ってくれるだろう。)

あの人とは、上京したての朝に、寝ている優一に対しインターフォンを押しまくって怒鳴り込んできたーーー優一の親友だという俳優の東栄人のことだ。
優一よりも少しキリッとした顔立ちで大人っぽいのだが、27歳で優一と同い年だと公表されている。

(俺、これから芸能人と会う機会多くなんのかなぁ)

居候している、と言えば大体何かを察して理解してくれるのだろうけど、それは優一がホモだと知らない場合だけだ。
栄人みたいに知っていると危ない勘違いをされてしまうかもしれない。

というか、勘違いされてるままーーーなんだよな。

実は栄人が来た日の夜、不安に思った葵は優一に、自分が居候している訳を栄人はちゃんと理解してくれたのかーーーということを聞いたのだが、その時の回答はこれだ。

「うん。ショタコンだったんだな。って言われたよ。」


ーーーいや勘違いされたままじゃん!!!

本当にこんなことになっては平凡な高校生活がちゃんと送れるかも危うい。
せめておばさんには安心させてあげたいし、高校生活だけでもまともに送りたい.....!
葵は願うように心に祈るのだった。

葵が正門を通り真ん中の校舎に入ると、下駄箱にはもう人だかりができていた。
それと同時にお喋りをする声も聞こえてきた。
進学校とはいえ匠南高等学校は名門なので、地元の中学校から友達と一緒にここへ来た人も多いのだろう。
葵はその様子を見ながら、下駄箱から階段を登った2階の一番右奥の三組の教室へと向かう。
高校始まって早々ガヤガヤとしている空気感は、地元とは大きく違ってなんだか急に不安になってくる。

(俺、友達.....できるかな。)

ーーー中学の時はみたいにならなきゃいいなーーー

葵は制服のネクタイをぎゅっと握りしめーーー深呼吸して自分の教室に入った。
まだ教室に人は数名しかいない。
みんな会話はしていなくて、スマホを弄っていたり学校の資料を読んだりしていた。
葵は並んだ机をまじまじと見つめる。すると、机の右上に名前の紙が貼られていた。
葵の席を探すと、教室の右側の一番端前列だった。

葵はそこで静かにホームルームが始まるのを待った。


...................................

それから10分後ーーー教室の中にはもう殆どの生徒が集まっていた。
騒がしい連中とも一緒らしく、葵はちょっと嫌だな......とも思っていたが、担任と思わしき眼鏡をかけた男の人が教室に入ると、皆は一瞬にして黙り込んだ。

「皆さんはじめまして。そして入学おめでとう。私はこの匠南高等学校1年3組の担任の香取かとり拓真たくまだ。1年間、よろしく頼む。」

先生はそう言いながら黒板に名前をスラスラと書いていく。

「さて、まだ新しい環境に慣れていないことかもしれないが、早速、皆に聞きたいことがある!それは、皆がこの学校にどんな目標を持って入ってきたのかーーーということだ。この最初の1年間は皆にとって物凄く大切な時間だ。遊ぶことも勿論良いが、勉強とか試験とか委員会活動とかそういう経験や努力こそが実を結んでこその3年間になるように、また皆にとっての着地点がもっともっと上を目指せるようにーーーーーー」

急にきて、まだ出会ってまもないというのに先生の熱弁は止まらない。
流石名門校の先生だけあるが、気合いの入り方がなんだか今までの先生と違う。
葵がそう思いながら周りを見ると、皆も同じく、先生の熱弁に圧倒されていた。

(これからマジで頑張らないとな.....。)



そんなこんなで、今日は学校の目標だったり前期後期、学年末の話だったりーーー学校の施設案内やらクラスの人達と自己紹介やらをして、4限で学校が終わった。
今日はほとんどがクラスの子たちとの交流がメインだったため、葵の不安は帰り際になる頃には無くなっていた。

葵は帰りのホームルームを終えると、交流で早速仲良くなった一ノ瀬いちのせあきらの元へと向かった。
一ノ瀬明は短髪で運動部にいそうな、葵と正反対の活発な見た目をしていた。けれど内面は話しやすくて、とても面白い子だった。
葵は明と共に足早に学校を出て駅へと向かう。

「なぁーーー葵ってさっきの交流で自分は上京したって言ってたじゃん?」

「あ、うん」

「もしかして、一人暮らしなの?」

(あー早速この質問きたか。でも実は俺、昨日のうちにその答えを用意してたんだ。)

「ううん、知り合いのお兄さんとシェアハウスみたいなのしてるよ」

「へぇーシェアハウスとかかっけぇー。一人暮らしかと思った。」

「あはは、本当は一人暮らししたかったんだけど、親に高校生だからまだ危ないって言われちゃってね。」

「まあそうだよなー。高校で上京って大変だなぁー。俺は元々都会生まれ都会育ちだから上京したやつの苦労わかんねぇけどさ、これからなんか行きたいとことか分からないことあったらなんでも聞けよ!折角こうやって仲良くなれたんだし!」

「あ、ありがとう!」

「あ、あと連絡先交換しねぇ?」

「するする!ちょっとまってね!」

「はーい」

(うわぁ良かったぁ!俺、1日目にしてこんないい子と友達になれた.....!)


「ーーーよし、おっけ。じゃあ俺この駅の向こう側だから。葵、また明日な!明日から頑張ろうぜ」

「うん!明くんもね!」

葵は明と駅で別れると、家に向かった。

............................



「ーーーそれで、高校生活1日目はどうだったの?」

仕事から帰ってきた優一と夜ご飯を食べていると、ふと優一にそんなことを聞かれた。


「ーーーなんか、都会の子って怖いイメージあったんですけど、その子は東京の事とかも色々教えてくれるって言ってくれて、まだ相手のことわかった訳じゃないんですけど、優しい感じの子だったから本当に良かったです。
帰りに連絡先も交換して早速明日待ち合わせようって話にもなりました.....!ってすみません。喋りすぎて。」

あれから葵は明とずっとやりとりをしていた。
東京のことや学校のことなどで早速盛りあがって、丁度楽しい気分に浸っていたのだった。


「そっかそっか。それは良かったね。うん、全然いいよ。葵くんが本当に高校を待ち望んでたんだなぁってのが聞いててわかるよ。」

「あ、はい....!ありがとうございます。....あ、えーっと、そうだ。優一さんは?優一さんの仕事とかはどうですか?」

(そういえば上京してからテレビ見てないけど相変わらずテレビには引っ張りだこなんだろうな。)

「んー。今は新しいドラマの検討会みたいな感じで打合せしてるところ。ほかの番組の出演も順調だよ。」

「そうなんですね。あとーーー」

(あのBL小説ーーーのことは触れなくていっか。てか、触れちゃダメか。)

「ん?」

「あ、いや....朝、起こせなくて申し訳なかったなぁと思いまして。」

「あー、全然謝らなくていいよ。僕、ほんと朝がダメなんだよなぁ。ーーーまあ。でも、基本朝の僕はほっといてくれていいからね。今までもこんな感じだったし、やばい時は栄人が前みたいに怒鳴り込んでくるから、その辺は葵くんは気にしないで学校に行って。」

「わ、わかりました。」

(でもさ、俺がいるってわかって今度起こしに来なくなったらどうすんだろ.....まあその時はその時か。)

「あ、あとね、葵くんのおばさんから昼に電話が入っててーーー」

「え、おばさんから?なんて言ってました?」

「門限は19時と伝えて、だって。」

「え!19時って結構早くないですか?」

(ていうか、そっかーーーおばさんと優一さんはやり取りしてるんだ。)

「おばさん曰く、東京の高校に入って楽しくなっても夜遊びをするような子だけにはなって欲しくない。ということらしい。まあ、高校生の門限としては妥当じゃない?それに遅くなられたら僕の夜ご飯も無くなるし。」

「まあ...そうですね。でもまだ高校はじまって1日しか経ってないのにおばさん気にし過ぎじゃ.......」

(いや元々こういう人だったか。中学の時のことも気にしてたくらいだし。)

「んー僕はわからないけど、おばさんの立場からしたらずっとそばに居た子が急に都会の学校に行ってしまうなんて不安過ぎて仕方ないだろう?だから、おばさんはどんなに離れていても約束事は決めておきたいんだと思う。」

「うーん......わかりました。」

「それに、僕も不安だしね?」

「え?」

(優一さんが不安?)

「いやぁ、まさか......初対面の男の口で気持ちよくなって喘いでしまうような子供が東京の高校に行くなんてさ...。おばさんが心配する気持ちが痛いほどわかーーー」

「い、いやいやいや!!それに関しては優一さんのせいでしょ!!ていうかそもそも、俺よりもこんなことをやってる優一さんの方がダメじゃないですか!
おばさんには家事だけしてくれれば住ませてあげるーーーとか親切な感じで言っていたらしいのに、実際は体で払えとか言ってきて!」

(そうだそうだ!実はあのイケメン俳優黒瀬優一だからって、この期に及んで変なことしまくろうと考えてる人なんだこの人は!)

「いや、葵くん、これは健全な家賃取引だよ?しかも、この僕の家に住むという事は、葵くんの、東京の高校に行きたい!って言う思いを考えたおばさんが奨めて決めた事なんでしょう?それなら尚更、葵くんの立場で僕に文句、言えるのかな?」

「くっ.....」

(確かに言ってることは間違いではない.....おばさんとか家賃とか言われると言い返せない.....!)

「むしろこんなに贅沢できる高校生なんて東京でもなかなかいないだろうからね。他人の手がかかってここに居るんだから、葵くんはおばさんの言うことをちゃーんと聞いて、ヘマしないようにね。」

「言われなくてもヘマしませんよ!!」

「あと高校で忙しくなってもおばさんにはこまめに連絡するようにね。」

「それは、わかってます。」

「うん。ーーーそれじゃ、美味しかった。ご馳走様。」

「あ、ご馳走様でした。」

とっくに食べ終えていた食器を片そうと葵が立ち上がると、ふいに優一に呼び止められた。

「あーまって。葵くん。」

「はい?」

葵が顔を上げると、視界に一気に優一の顔が詰め寄り、唇に柔らかい感触が触れた。

「っ.....今日の家賃、忘れるとこだった。」

「あ、あの.....!ちょっと思うことがあるんですけど...!」

「なに?」

「まさかこれからこんなふうに1日1回キスみたいなのが家賃になるんですかっ....?」

「うん。だって.....同棲カップルみたいで良くない?」

「あのーそもそも俺ホモじゃないんですが。」

「それとももっと激しいのがいい?葵くんのために簡単なプランにしてあげてるのになー」

「は、激しいって.......!あのほんとにそういうのやめてください!まだあの件だって....、初日の件だって俺は許してるわけじゃないんですからね!」

「へぇー。あんなに気持ちよさそうにしてたのに?ふふ、まあいいよ。今はそんなに嫌がっててもそのうち好きになってくるから。」

「ひぃ.......ないないないない。おばさん....助けて....」

(いくら黒瀬優一でもホモは無理だし我慢してるのは家賃のためだし。)

「あぁ。それと今思い出したんだけど、おばさんが僕のファンになったらしい。」

え。

「は、はい?ま、また突然何を....」

(ハッ.....まさかあの入学式の時の写真で....!!)

「ははは、なんかね。元々声はかっこいいと思ってたけどまさか見た目もかっこいいなんておばさんびっくり~!って。それでさ、「葵くんは実はお兄さん欲しがってた時期があったから、どうか葵くんのこと沢山可愛がってあげてください。私が褒めるよりも若くてかっこいい人に褒めてもらった方が断然いいと思うし!」なんて、頼まれちゃったよ。」

優一はさも当たり前かのように口角を上げてにやりと微笑む。

(うんおばさんはこの人がホモだとは知らないからそう言ったんだよね。そうだよね。だって俺、確かにお兄さんとか憧れてたけど流石にホモはやだよ!?)

「だから、勿論たっぷり可愛がります。って言っといた。まあ、僕は個人的に最初から葵くん可愛いーなって思ってたから、全然可愛がろうと思ってたけどね。」

「いやいや、本当にいいですよ!ほんとに可愛がるとかは!それにおばさんのはただの親バカだし...!」

(ていうかこの人の可愛がるは意味が違うだろ!!)

「親バカかなぁ?葵くんのことよく考えてくれてると思うけどなぁ。」

「そ、それはわかってます....。でも考えすぎるところもあるんで....。」

「ふーん。」

(てか今、何時だろ。明日早いしそろそろ....。)

葵が時計に目をやると、優一も同じタイミングで時計に目を向けた。

時刻は21時を過ぎていた。
優一の仕事が終わるのを待っていたため、夕食が遅くなってしまったのだ。

「ーーーそうだ葵くん、今日お風呂入れてくれる?明日も打ち合わせあるから入りたい。」

「あ、はい。俺も入ろうと思ってたので入れてきます。」

「うん。宜しくね。」

「はい。」

「それじゃっ、明日も頑張ろうね」

「う、うん.....」

(なんかうまく丸め込まれてる気がしないでもないが.....まあ、いっか。)

こうして何とか葵は高校生活1日目を終えーーーまた、同じような朝を迎えることになるのであった。


.....................



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