魔法特殊案件特務部の報告書

星月 猫

文字の大きさ
上 下
5 / 5

Case04:龍神の巫女は舞う

しおりを挟む
山と積み重なる紙。

無造作に置かれた本。

煌々と光るモニター。


そんな部屋の最奥にあるのは魔法特殊案件特務部、事務課のおさのデスク。


……なのだが。


「あれ、巫女さまは?」
「あら、巫女さんは?」

よく似た双子が、その場に居た職員仲間達に問う。

「あー、課長ならしばらくお休みですよ」
「奉納の時期ですからねぇ」
「前日まで散々、面倒だ!ってグチりながら仕事してましたっす」
「ほんとこの時期だけは課長が“少女”って言える年齢なんだよなーって実感できる」
「「「それなー」」」

あぁ……と遠い目をした双子。

結局、手にした報告書はサボりなのか不在な係長のデスクに置いておく事にしたようだ。


***

一方その頃。
とある山奥にあるやしろでは、慌ただしく面布を付けた人々が動いていた。


その音が遠くに聞こえるここは、この社の主たる土地神……龍神の神域にほど近い繋ぎの間。

『やはりこの時期は良い。賑やかだ』
「引きこもり神がよく言う……」

むくれながら胡座をかき、龍神に供えられたはずの煎餅を齧るのは──毛先が紅い白髪に、あかい瞳を持った少女。


和装と洋装の中間にあるような服の隙間からは、鱗のような痣が右腕から首にかけて巻き付くように見えている。

その痣こそ、少女がこの神域場所で、の神に対して気安く過ごせる理由だ。


──龍神の愛し子。


それが、巫女と呼ばれる彼女であった。


『……うまそうだな。我にもくれ』
「自分で取れ」
『口に放り込んでくれればそれで良いのだが』
「人型に変化するなるのが面倒なだけだろう。動け駄神」

ちょっかいを掛けてくる太い髭を、ぴしゃりと叩き落とす。

すると今度は頭が近付いて来た。


『……南天なんてん



………………私の真名を呼ぶ……いや。
呼べるのは、この龍だけ。

今は私がこの土地から離れているからこそ、年に何回も呼ばれることは無い……ソレ。

私は大きなため息をひとつ吐いて、側にあった煎餅を手に取った。


***


それから時間は過ぎ、満月が天高く登る頃。

私は社の中にある高舞台の上で片膝を付いている。


この場所において、私がかしずこうべ垂れるのは龍神のみ。


唯一の音であるパチパチとぜる松明がパン!と、ひときわ大きく音を鳴らした瞬間、私は口を開いた。



「《──来い》」



次の瞬間、手元に現れたのは一振の刀。

スラリと抜けば、紅と浅葱あさぎの刀身があらわになった。


短く息を吸い、ソレで空気を割くように振う。



──嗚呼、やはりコレが1番手に馴染む。


















踊るように剣舞を舞う巫女。


 首に揺れるは赤々とした玉飾り。

 鱗のような痣はうっすらと光を帯びて。

 月明かりはその白き髪を輝かせ。

 朱い瞳は爛々と燃える。



その姿はまさに、龍神の

──仔であり

──友であり

──妻であり

──対なる者であり

愛し子魅入られし者であるに相応しい、怪しさと神々しさを放っていたという。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...