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Case02:月光花と日光花を探す姉妹
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突然だが、月光花と日光花と呼ばれる花を知っているだろうか。
……ああ、そうだったな。
では、サンカヨウという花も分かるな?
そう。雨水で花弁が透明になる花だ。
……察しているようだが、今回おまえたちに任せたい案件はコレだ。
***
そんな感じで事務課から渡された依頼書。
ソレに書かれていたことを要約するとこんな感じだった。
・「不可能を可能に!」というキャッチフレーズを使って恋愛系の詐欺をしている組織がある。
・その組織が惚れ薬として売りつけているのが「月の霊薬」と「太陽の霊薬」の2種。
・静かに、ひそやかに恋愛をしたいなら「月の霊薬」を。
燃えるような恋愛をしたいなら「太陽の霊薬」を。
他人から思い人を奪いたいなら、もう片方を恋敵へ飲ませろと言う。
・以上から、有名な童話と実在する魔法植物の名を騙るものであると推測される。
・なお本案件は、特殊詐欺対策課と魔法特殊案件特務部の合同捜査とする。
「……いや、なんでコレで騙されるかな」
「きゅい」
「あ~、“恋は盲目”ってヤツかぁ」
このやりとりを見ていた赤髪の中性的な顔立ちの人物は後にこう言った。
「何故わざわざ、雪華は六花の頭の上に乗って書類を見るんだ?」
***
結論から言おう。
例の詐欺グループはあっけなく逮捕された。
問題はその後である。
組織の保管庫を捜索したところ、特定保護種である本物の月光花と日光花が発見されたのだ。
主犯だる人物の供述曰く、闇市でたまたま手に入れたそうだ。
その時には蕾がついていたが、購入した次の日には枯れるようにしなびてしまった。
しかし、摘み取った蕾から成分を抽出したものを惚れ薬として売っていたらしい。
……この人物は知らなかったのだろう。
月光花には月の光が、日光花には日光が。
さらに、綺麗で多量の魔力が無ければ種が発芽する事も、花を咲かせる事も無いのだ。
そもそも、この2種は高山植物であるサンカヨウが何らかの要因で魔化──魔力を持ち、変化した特異個体である。
サンカヨウという植物自体、平地で育てることは容易ではない。
それが魔化した個体ならなおさらに。
そんな2種が群生している唯一の場所がある。
数多ある浮遊島の中でも、特に高所を漂う無人島。
空に、天体に最も近いその名を──白竜島。
島自体が浮遊石で出来ているということでも名を知られているその島は、またの名を“最も人類から遠い島”とも言う。
あまりの高度に、空に生きる者たちや機械ですら容易に近づけないからである。
「で、私達に声がかかったと」
「そうだ。その苗たちは本来地上にあってはいけないモノ。かの島の守護獣、白竜一族のものだ」
実働課の長たる初老の男性と、月光のように白い髪に燃える太陽の赤い瞳をした少女……六花の目線がソレに向けられる。
「きゅい?」
きょとんと六花の頭に乗って首をかしげるのは、白銀の羽毛に赤い瞳をした小さな羽毛竜。
彼女の相棒たる、白竜一族が血族の末っ子──雪華である。
このふたりが姉妹となった理由にもかなり、かなり複雑な訳があるのだが……それは今はいいだろう。
とにかく、今ここで姉妹の任務を兼ねた里帰りが決まった瞬間であった。
***
────────────────────────────────────────
【報告書 4/4ページ】
書:六花
以下、本案件についての補足
月光花
空色で4cmほどのちいさな花をつける霊草で、高山植物サンカヨウの魔化個体。
月光が当たると、花弁がガラスのような半透明になる。
月の光が無ければ種が発芽する事も、花を咲かせる事も無い。
日光花
赤橙色で4cmほどのちいさな花をつける霊草で、高山植物サンカヨウの魔化個体。
日光が当たると、花弁がガラスのような半透明になる。
日光が無ければ種が発芽する事も、花を咲かせる事も無い。
どちらも童話に登場することで有名。
その童話こそ「月の花と太陽の花」である。
物語はとある村に住む飛空士の青年が嵐に巻き込まれ、たどり着いた浮遊島で出会った少女と白竜に助けられる所から始まる。
彼は助けてもらったお礼に何をすればいいか聞く。
ふたりは地上の話しをせがんだ。
その中で青年が村に帰ったら好きな子に告白すると告げると、ふたりは月光花と日光花の花と実で飾ったリースを渡してくれた。
村に戻った青年はリースを日当たりと月明かりの当る場所にリースを飾る。
しかし、数ヶ月が経った頃から様々な災いが訪れるようになる。
紆余曲折あって、彼女の家が火事に遭い助けに入る。
それをきっかけにして、2人は結ばれることになる……というストーリーである。
この童話から、月光花と日光花は試練を与えるが結婚成就の御守りとされる。
────────────────────────────────────────
***
「……結婚成就の御守りになんてならないのにね」
『むしろ逆だもんねー』
──白い姉妹は知っている。
──自らがおこしてしまった悲劇を。
ふたりは本棚に置かれた、古ぼけた本に目をやる。
タイトルは“少女と白竜”とかろうじて読めた。
──悲劇を繰り返さないため、姉妹は今日も美しき花を探すのだ。
────────────────────
「少女と白竜」
かなり古い時代からあるが、絶版になって久しいマイナーな物語。
マニアの間ではボロボロであっても読めれば高額で取引されるという。
物語はアルビノであったことを理由に贄として捧げられた幼子が、白銀の羽毛竜一族に保護され育てられる所から始まる。
一族に久々に生まれた子と姉妹のように育てられ、成長した少女。
姉妹はある日、月光花と日光花の草原で遊んでいた。
そこで嵐に巻き込まれてきた青年が倒れているのを発見する。
水と果物で元気を取り戻した青年は、村に帰ったら婚約者と式を挙げるのだという。
それを祝福し、ふたりは彼に月光花と日光花の花と実で飾ったリースを贈った。
しかし、後に姉妹はこの2つはここでのみ同時に存在するものであり、地上に行けば枯れてしまうことを知る。
それだけでなく、枯れた2種が近くにあると災いを招くという。
これを聞いた姉妹はリースを回収するべく地上で大冒険をすることになる……というストーリー。
……ああ、そうだったな。
では、サンカヨウという花も分かるな?
そう。雨水で花弁が透明になる花だ。
……察しているようだが、今回おまえたちに任せたい案件はコレだ。
***
そんな感じで事務課から渡された依頼書。
ソレに書かれていたことを要約するとこんな感じだった。
・「不可能を可能に!」というキャッチフレーズを使って恋愛系の詐欺をしている組織がある。
・その組織が惚れ薬として売りつけているのが「月の霊薬」と「太陽の霊薬」の2種。
・静かに、ひそやかに恋愛をしたいなら「月の霊薬」を。
燃えるような恋愛をしたいなら「太陽の霊薬」を。
他人から思い人を奪いたいなら、もう片方を恋敵へ飲ませろと言う。
・以上から、有名な童話と実在する魔法植物の名を騙るものであると推測される。
・なお本案件は、特殊詐欺対策課と魔法特殊案件特務部の合同捜査とする。
「……いや、なんでコレで騙されるかな」
「きゅい」
「あ~、“恋は盲目”ってヤツかぁ」
このやりとりを見ていた赤髪の中性的な顔立ちの人物は後にこう言った。
「何故わざわざ、雪華は六花の頭の上に乗って書類を見るんだ?」
***
結論から言おう。
例の詐欺グループはあっけなく逮捕された。
問題はその後である。
組織の保管庫を捜索したところ、特定保護種である本物の月光花と日光花が発見されたのだ。
主犯だる人物の供述曰く、闇市でたまたま手に入れたそうだ。
その時には蕾がついていたが、購入した次の日には枯れるようにしなびてしまった。
しかし、摘み取った蕾から成分を抽出したものを惚れ薬として売っていたらしい。
……この人物は知らなかったのだろう。
月光花には月の光が、日光花には日光が。
さらに、綺麗で多量の魔力が無ければ種が発芽する事も、花を咲かせる事も無いのだ。
そもそも、この2種は高山植物であるサンカヨウが何らかの要因で魔化──魔力を持ち、変化した特異個体である。
サンカヨウという植物自体、平地で育てることは容易ではない。
それが魔化した個体ならなおさらに。
そんな2種が群生している唯一の場所がある。
数多ある浮遊島の中でも、特に高所を漂う無人島。
空に、天体に最も近いその名を──白竜島。
島自体が浮遊石で出来ているということでも名を知られているその島は、またの名を“最も人類から遠い島”とも言う。
あまりの高度に、空に生きる者たちや機械ですら容易に近づけないからである。
「で、私達に声がかかったと」
「そうだ。その苗たちは本来地上にあってはいけないモノ。かの島の守護獣、白竜一族のものだ」
実働課の長たる初老の男性と、月光のように白い髪に燃える太陽の赤い瞳をした少女……六花の目線がソレに向けられる。
「きゅい?」
きょとんと六花の頭に乗って首をかしげるのは、白銀の羽毛に赤い瞳をした小さな羽毛竜。
彼女の相棒たる、白竜一族が血族の末っ子──雪華である。
このふたりが姉妹となった理由にもかなり、かなり複雑な訳があるのだが……それは今はいいだろう。
とにかく、今ここで姉妹の任務を兼ねた里帰りが決まった瞬間であった。
***
────────────────────────────────────────
【報告書 4/4ページ】
書:六花
以下、本案件についての補足
月光花
空色で4cmほどのちいさな花をつける霊草で、高山植物サンカヨウの魔化個体。
月光が当たると、花弁がガラスのような半透明になる。
月の光が無ければ種が発芽する事も、花を咲かせる事も無い。
日光花
赤橙色で4cmほどのちいさな花をつける霊草で、高山植物サンカヨウの魔化個体。
日光が当たると、花弁がガラスのような半透明になる。
日光が無ければ種が発芽する事も、花を咲かせる事も無い。
どちらも童話に登場することで有名。
その童話こそ「月の花と太陽の花」である。
物語はとある村に住む飛空士の青年が嵐に巻き込まれ、たどり着いた浮遊島で出会った少女と白竜に助けられる所から始まる。
彼は助けてもらったお礼に何をすればいいか聞く。
ふたりは地上の話しをせがんだ。
その中で青年が村に帰ったら好きな子に告白すると告げると、ふたりは月光花と日光花の花と実で飾ったリースを渡してくれた。
村に戻った青年はリースを日当たりと月明かりの当る場所にリースを飾る。
しかし、数ヶ月が経った頃から様々な災いが訪れるようになる。
紆余曲折あって、彼女の家が火事に遭い助けに入る。
それをきっかけにして、2人は結ばれることになる……というストーリーである。
この童話から、月光花と日光花は試練を与えるが結婚成就の御守りとされる。
────────────────────────────────────────
***
「……結婚成就の御守りになんてならないのにね」
『むしろ逆だもんねー』
──白い姉妹は知っている。
──自らがおこしてしまった悲劇を。
ふたりは本棚に置かれた、古ぼけた本に目をやる。
タイトルは“少女と白竜”とかろうじて読めた。
──悲劇を繰り返さないため、姉妹は今日も美しき花を探すのだ。
────────────────────
「少女と白竜」
かなり古い時代からあるが、絶版になって久しいマイナーな物語。
マニアの間ではボロボロであっても読めれば高額で取引されるという。
物語はアルビノであったことを理由に贄として捧げられた幼子が、白銀の羽毛竜一族に保護され育てられる所から始まる。
一族に久々に生まれた子と姉妹のように育てられ、成長した少女。
姉妹はある日、月光花と日光花の草原で遊んでいた。
そこで嵐に巻き込まれてきた青年が倒れているのを発見する。
水と果物で元気を取り戻した青年は、村に帰ったら婚約者と式を挙げるのだという。
それを祝福し、ふたりは彼に月光花と日光花の花と実で飾ったリースを贈った。
しかし、後に姉妹はこの2つはここでのみ同時に存在するものであり、地上に行けば枯れてしまうことを知る。
それだけでなく、枯れた2種が近くにあると災いを招くという。
これを聞いた姉妹はリースを回収するべく地上で大冒険をすることになる……というストーリー。
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