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第1章 宵の鉄鎖、暁のぬくもり
第2話《家族》
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柔らかく、暖かいモノに包まれている──それを感じるのと同時に意識が浮上した。
「……重い」
ボクはそれぞれ1mはある巨大な白と黒2匹の猫に挟まれていたのだ。
『ふぁぁ…………あっ、起きた!』
『うぅ……黒、うるさい…………』
『おねーちゃん、黒じゃなくて《ライラ》だよ!!』
『はいはい……』
白猫が起き上がって大きく伸びをする。
視線を感じて背後を見ると、金と水色の瞳と目が合った。
「猫さ……じゃなくて、ライラ……?」
『そーだよー。あっ、この姿を見せたの初めてだったっけ?』
こくり、とボクはうなずいた。
『…………どうでもいいけど、早く解放してあげたら?』
ボクは今動けないでいた。
……ライラの前足に抱えられているから。
言われて気づいたらしい彼女は謝りながら、慌ててボクを解放した。
***
ライラがボクを背中に乗せて(どうやら乗せたかったらしく、ボクとしてもいつもと違う視線の高さが新鮮だった)近くの小川に向かう途中、白姉さんが詳しい話をしてくれた。
あぁ、白姉さんとはライラのお姉さんの事だ。
魔獣に名前は無いのでこの仮名で呼ばせて貰う事にした。
閑話休題。
ボクが魔力の使いすぎで気絶した後。
ライラはボクを背負い、個人魔法《影渡り》(いつもこの魔法で影の中を渡って、ボクの牢に来ていたらしい)で地下牢から脱出。
そのまま森の奥深くにある住処の洞窟まで行き、彼女たちの母親と一緒にボクを魔法で癒やしてくれたそうだ。
その時、母猫がボクの枷を切ろうとしてくれたらしいのだが……。
『なんかね、魔封じ?っていうのがかけられてるらしくて、壊せなかったの……』
しょぼんとするライラの頭を撫でる。
同時にジャラジャラと鎖が音を立てた。
「平気だよ。もう、馴れちゃったから」
そう言ったボクを、複雑そうな顔をした白姉さんが見ていた。
***
『あら!貴方目が覚めたのね!』
小川には先客……もとい、母猫が居た。
『おかーさん!戻ってたんだね』
ボクを乗せたまま、すり寄りに行くライラ。
母猫はそれを受け入れつつ、ボクを見た。
ボクはライラから降りて母猫を見上げる。
「助けてくれてありがとう」
『いいえ、森の守護者たる私たち“大猫族”は困っている者を放ったりしませんから。……そうでした、貴方のお名前を聞いても良いかしら?』
──オラッ、早く来い11番!
「………………無いよ。ボク達に付けられてたのは通し番号だけだったから」
『……ごめんなさい。辛い事を思い出させてしまったわね』
「大丈夫。……でも、無いと不便かな…………ねぇ、ライラ」
『なーに?』
後ろに振り向いてボクは言う。
「ボクに名前をくれないかな?」
目を丸くして驚く大猫たち。
あの時ボクは「ライラにもあげたし、どうせなら付けてくれないかな」程度に思っていた。
今思うと、物凄く重要な事を預けたんだと思う。
名前──それは時にそのモノ存在を表し、時に所有権や所属を証明するモノ。
下手をすれば魂に関わるほど重要なものだ。
それを普通、名を持たず自由に生きる者である魔獣……しかも、同い年の魔獣の子供に付けさせるなんて、本来はあり得ない事だろう。
…………でも。
『……ライラで、良いの…………?』
沈黙の後、何かを決心したようで。
でも不安そうに、しかし嬉しそうな顔でそう言う彼女にかける言葉は一つ。
「ボクは、“ライラに”付けて貰いたいんだ」
どちらからか──自然にボクたちは近づいて行き、互いの額を触れ合わせた。
『……ライラに名前をくれた、大切な人。ライラの居場所で止まり木────《ペリカ》』
こうしてボクらは“家族”になった。
「……重い」
ボクはそれぞれ1mはある巨大な白と黒2匹の猫に挟まれていたのだ。
『ふぁぁ…………あっ、起きた!』
『うぅ……黒、うるさい…………』
『おねーちゃん、黒じゃなくて《ライラ》だよ!!』
『はいはい……』
白猫が起き上がって大きく伸びをする。
視線を感じて背後を見ると、金と水色の瞳と目が合った。
「猫さ……じゃなくて、ライラ……?」
『そーだよー。あっ、この姿を見せたの初めてだったっけ?』
こくり、とボクはうなずいた。
『…………どうでもいいけど、早く解放してあげたら?』
ボクは今動けないでいた。
……ライラの前足に抱えられているから。
言われて気づいたらしい彼女は謝りながら、慌ててボクを解放した。
***
ライラがボクを背中に乗せて(どうやら乗せたかったらしく、ボクとしてもいつもと違う視線の高さが新鮮だった)近くの小川に向かう途中、白姉さんが詳しい話をしてくれた。
あぁ、白姉さんとはライラのお姉さんの事だ。
魔獣に名前は無いのでこの仮名で呼ばせて貰う事にした。
閑話休題。
ボクが魔力の使いすぎで気絶した後。
ライラはボクを背負い、個人魔法《影渡り》(いつもこの魔法で影の中を渡って、ボクの牢に来ていたらしい)で地下牢から脱出。
そのまま森の奥深くにある住処の洞窟まで行き、彼女たちの母親と一緒にボクを魔法で癒やしてくれたそうだ。
その時、母猫がボクの枷を切ろうとしてくれたらしいのだが……。
『なんかね、魔封じ?っていうのがかけられてるらしくて、壊せなかったの……』
しょぼんとするライラの頭を撫でる。
同時にジャラジャラと鎖が音を立てた。
「平気だよ。もう、馴れちゃったから」
そう言ったボクを、複雑そうな顔をした白姉さんが見ていた。
***
『あら!貴方目が覚めたのね!』
小川には先客……もとい、母猫が居た。
『おかーさん!戻ってたんだね』
ボクを乗せたまま、すり寄りに行くライラ。
母猫はそれを受け入れつつ、ボクを見た。
ボクはライラから降りて母猫を見上げる。
「助けてくれてありがとう」
『いいえ、森の守護者たる私たち“大猫族”は困っている者を放ったりしませんから。……そうでした、貴方のお名前を聞いても良いかしら?』
──オラッ、早く来い11番!
「………………無いよ。ボク達に付けられてたのは通し番号だけだったから」
『……ごめんなさい。辛い事を思い出させてしまったわね』
「大丈夫。……でも、無いと不便かな…………ねぇ、ライラ」
『なーに?』
後ろに振り向いてボクは言う。
「ボクに名前をくれないかな?」
目を丸くして驚く大猫たち。
あの時ボクは「ライラにもあげたし、どうせなら付けてくれないかな」程度に思っていた。
今思うと、物凄く重要な事を預けたんだと思う。
名前──それは時にそのモノ存在を表し、時に所有権や所属を証明するモノ。
下手をすれば魂に関わるほど重要なものだ。
それを普通、名を持たず自由に生きる者である魔獣……しかも、同い年の魔獣の子供に付けさせるなんて、本来はあり得ない事だろう。
…………でも。
『……ライラで、良いの…………?』
沈黙の後、何かを決心したようで。
でも不安そうに、しかし嬉しそうな顔でそう言う彼女にかける言葉は一つ。
「ボクは、“ライラに”付けて貰いたいんだ」
どちらからか──自然にボクたちは近づいて行き、互いの額を触れ合わせた。
『……ライラに名前をくれた、大切な人。ライラの居場所で止まり木────《ペリカ》』
こうしてボクらは“家族”になった。
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