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プロローグ

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「あれが噂の“魔獣の姫”か……」
「……あれで成人してるのか。小さいな」
「しかもあの“ヴィーゾフ家”の養子になったんだろ?」
「従魔士とはいえ、高ランクの魔獣をあんなにテイムしたのか。末恐ろしいな……」

──共通情報交換所ギルド
そこは冒険者や傭兵、召喚士等の総合案内所の役割のある施設だ。
そこそこの大きさの町には大抵1ヶ所はあり、依頼を受けたり、手紙などの仲介もしてくれる旅人にはとても便利な施設である。
そんな、とある町の共通情報交換所ギルドの店内には今、珍しいお客が訪れていた。

***

ざわつく店内を無視して、用の済んだ濡羽色の髪の少女ボクは従魔たちと共にカウンターから離れた。

すりっ、と手の甲にもふもふしたものが触れる。
『ペリカ、大丈夫か?』
「うん。いつもの事だし、もう馴れた」
『あんなやつら、放っておけば良いんだよ。ニールは心配性だねー?』
『……心配しちゃ悪いかよ』
そんな従魔たちの会話にボクは目を細めた。

その後はまっすぐ街を出て、少し離れた所にある草原に向かう。
そこで寝転んだボクを囲んでいるのは、魔力を持つ獣──魔獣たち。
ボクの従魔で、かけがえのない家族だ。

大きく伸びをして起き上がり、隣に居た大猫の変異ユニーク個体……ライラに寄りかかった。
金と水色のオッドアイがボクを映す。
『どうかしたの、ペリカ?』
「さっきギルドでこれを渡された」
大猫では珍しい黒い毛並みに体を預けつつ、肩掛け鞄からそれを取り出して見せる。
すると、横から声が降ってきた。
『……手紙か?』
体長が2mはある銀狼、ニールだ。
ギルドでは縮めていたが──本来はこの大きさで、ライラより2周りは大きい。
……そんな紺碧の瞳が興味で輝いている。
「カロ兄さんが手紙でボクの様子を聞いてきた。……そろそろ一度、顔を見せに来いって」

その時突然、影が落ちた。

バサリ、と聞こえた羽音は3つ。
『なーに?また何かあったの?』
最初に話かけて来たのは、茜色の瞳が印象的な黒茶色の大鷲。
「お帰り、ルフト」
ボクは近づいて来た彼女を伸ばした腕に乗せ、撫でながら言った。
再び風が巻き起こり、大きな魔獣が降り立つ。
あるじよ、周りには特にこれといって脅威になりそうなモノは無かった』
声の主はニールより一回り大きく、翡翠の瞳と褐色の羽毛を持った雄々しい鷲獅子グリフォンのヴァン。
『まぁ僕たちの相手になるくらいの魔獣なんて、早々居ないんだけどね!』
地面に降りた彼の頭にちょこんと乗って胸を張って言ったのは、紫の瞳にフワフワした水色の羽毛を持った羽毛竜フェザードラゴンのクルルだ。
「二人もお帰り。偵察ありがとう」
クルルはボクの肩に飛んで来ると、手元の手紙を覗き込んで来る。
『んん~?リカちゃん家に戻るの?』
血の繋がらない兄たちに「セカイを見ておいで」と送り出されてから5年。
もう、そんなに経ってたんだ……。
「……そうだね。ここからならそんなに遠くないし、丁度良いかな……って、うわ!?」
『それならライラ、お姉ちゃんにお土産渡したい!』

視界に黒いもふもふ。
首筋に銀のもふもふ。

「ライラ……いきなり立たないで。頭打つ所だった。ニール、ありがと」
『ああ。気を付けろ、ライラ』
『ごめんなさい……』
しょぼくれる彼女を慰めるルフトとクルル。
その様子を微笑ましそうに見守るヴァン。
そして──ニールのたてがみに顔を埋めるボク。

これが今のボクたちの日常だ。

~*~*~*~*~*~*~
【あとがき】

──もふもふをモフモフしたいんじゃ!!!

と言ういつもの思考の元に爆誕した新シリーズ。
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

今作のキャラたち、実はあちこちの私の作品(未発表含む)から引っ張って来たりしています。
今や幻となった友人との合作の1つからは、大本の世界観をサルベージしてたり。
まぁ、パラレルワールドなので上記のセカイと全く同じではありませんが……。


かなりのんびりした更新になるかと思いますが、今作
 ライゼ・ジュールナル ─もふもふと行く従魔士の旅日記─
をよろしくお願いします!
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