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(4)アランside

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***

ジュゼの運転で戻ったオレは、車から降りると勢いよく走り玄関の扉をバンッと開けた。
突然のオレの帰宅に使用人長のエルナを始め、使用人達は驚きバタバタしながら玄関へ出迎えに集まってくる。
その中でオレが視線を走らせて捜すのは、たった一人。スズカ、彼女だ。

……しかし、見当たらない。

「っ……スズカは何処だ!」

「ス、スズカでございますか?彼女出したら自分の部屋に……」

「ーーッ!」

自分の部屋ーー。
そうエルナから聞いたオレはすぐさまその場を駆け出し、スズカの部屋へと急いだ。

会ったら伝える事は、車の中で何度もシュミレーションした。
まずは駆け寄り、正面から両肩を掴んで見つめる。大事な事だからな、おかしな前置きは省き、はぐらかさずにしっかり目を見て伝えるのが礼儀だろう。
きっと相手は何事かと目を見開いて見上げてくると予想されるから、そこで言うんだ。

オレが好きなのはお前だ!
オレと結婚して、これからは妻として堂々と傍にいろ!、とーー。

……よし!完璧だ。行くぞ!

「おい!いるか?開けるぞ!」

トントントンッとノックした後、オレは返事を待たずして部屋の扉を開けた。
すると、……。


「ーーッ!アラン、様!」

「!っ……。何を、している?」

部屋の中に居た彼女を見て、オレは思わずそう口にした。
何故ならその姿と様子は、想像していたものとは全く違っていたから……、……。

服装は使用人メイド服ではなく普段着。ベッドの上に大きめの鞄を開けて、何やら荷造りをしているような……。まるでこれから何処かへ出掛けるような感じだった。

「っ、……何処かへ、行くのかっ?」

ドクンッと嫌な鼓動が音を立てる。
オレに見付かって気不味そうな、言いづらそうな雰囲気の彼女の様子に、胸が締め付けられて、今までの後悔が押し寄せてくる。
酷い扱いをした。ろくに会話もせず、毎夜のように抱き、逆らわないのを良い事に身体だけを目的とし性欲の処理をさせられていた、と思われても仕方ない。逃げたいと思われても仕方ない。
何処をどう思い返しても、愛想を尽かされて、出て行かれても仕方のない自分だ。

もう、間に合わないのかーー?

彼女の姿に、そんな想いが過ぎる。

……でも。
このまま何も伝えずに、絶対に終わりたくないと思った。
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