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(2)アランside

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女は自分の手の中にある香水の瓶を、大事そうに包んで見つめている。

何故だろうーー?

嬉しそうに、愛おしそうにしているその姿を、オレは無性に奪ってやりたくなった。

「気に入らんな」

「えっ?……きゃ、ッ!」

オレは手を掴み引くと、自分の身体に倒れ込んで来た女から香水の瓶を取り上げる。そして、そのまま荒々しく唇を奪ってやった。

 香水こんな物より、もっと良い気分にさせてやる。
第一、この女は物よりも"オレの女"になりたいと言ったじゃないかーー。

今夜は抱く予定ではなかった。
が。女に輝く美しい瞳で自分を見つめて欲しかったオレは、当初の予定をすっかり忘れて自分自身で喜ばせようとしていた。

……でも。
唇を離して見ると、女は悲しそうな瞳になり、オレとオレが奪った香水の瓶を交互に見つめていた。
その表情を見たら胸がズキッと痛んで、その想いがそのまま口から漏れる。

「っ……、結局……お前も物か」

「!……え?」

「何もいらないとか言って、本当はオレの……、っ……」

言いかけて、オレはグッと想いを飲み込んだ。

……何を、落ち込む必要がある?
今まで人を愛さず、物のように扱って、見下してきた自分。そんな自分が、今更誰かに求められたいなんて馬鹿げた話だ。


『アラン。私の可愛いアラン。
貴方は私の宝物よ。ずっと側にいてねーー』

そう言いながら、自ら命を絶ってオレを独りにした母親。
あの日から、"ずっと"なんてない。求める事も、求められる事にも、期待する事はやめた。

……だから、平気な筈なんだ。
それなのに、モヤモヤしたり、胸が痛んだりするのは何故なんだーー?


「私が嬉しかったのは、アラン様が下さった物だからです」

心の中で問い掛けたオレに、女が言った。
その言葉に視線を合わせると、女はそっとオレの頬に手を触れて言葉を続ける。

「アラン様が下さる物ならば、私は何でも嬉しいんです」

「っ……」

「こうして今宵も呼んで下さった事も、嬉しいです。
……約束を守って下さり、ありがとうございます」

ポワッと、暗闇を照らす光のように、女が微笑った。
その笑顔は、曇り切った心のオレにはさっきより一層美しく映って……。でも、決して眩し過ぎる事のないその輝きは、今のオレの心に丁度良い光をくれる。
すると真っさらになったオレの心の中に、兄上の言っていた答えが見つかった気がした。
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