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第22章(3)スズカside
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しおりを挟む「……え?なんですって?」
「それが……奥様が今後はお名前で呼んでほしいと。
そして、私達の事も名前で呼びたいと申しております」
奥様の申し出を相談すると、使用人長も少し戸惑った様子だった。
世間から見たら名前で呼び合う事など何ともない事かも知れないが、この邸では……。いや、アラン様が主人になってからは前代未聞の事。
アラン様が私達を名前で呼ぶ事はなく、呼ぶ時は「おい」や「お前」。使用人長でさえも、名前で呼ばれる事はなかった。
「奥様の申し出とあれば、奥様をお名前で呼ぶ事は許されましょう。
……けれど、私達が奥様に名を覚えて頂くような慣れ親しんだ行為はアラン様の気に触れるかも知れません」
使用人長は少し考えられたあげく、私に言った。
「はい。分かりました、そのようにお伝え致します」
その返答に口ではそう答えながらも、正直私は奥様の申し出に驚きながらも嬉しかった。
"スズカ"、たった一度の自己紹介でその名を覚えて頂けて、優しい声で呼んで頂けた。
そうしたら私には、懐かしい想い出がよみがえってきたの。
マオ様と過ごした、あの初恋の日々の想い出が……。
身分差がありながらも、私を一人の人間として扱ってくれた。
私と言う人間を、マオ様はしっかり見てくれたの。
嬉しくて楽しくて、夢のような時間だった。
『名前で呼んでほしいんです。
私も貴女をスズカと呼びます。あと出来れば他のみんなの名前も教えてほしいな?』
だから奥様がそう言って下さった時、一瞬あのマオ様との日々を思い出した。
またあの頃みたいに毎日を楽しみに出来る気が、した。
……けど。
それはきっと気のせい、よね?
"まさか"と思った。
気を取り直して、いつも通り仕事をただ淡々と熟そうと思った。
でも、その予感は気のせいなどではなく……。
「では、お仕事に戻りま……」
「ーーまあ、奥様!いかがなさいましたかっ?」
ーーえっ?
使用人長の言葉にハッとする。目を向けると、奥様が私達の居る一階へ向かって階段を降りてくるところだった。
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