夢の言葉と失われた追想【続編④】

第１２章（３）アカリside

３-４

【夢の配達人隠れ家/マスターの部屋】

その場に一緒に立ち会ってくれたのは、マスターさんとディアスさんと……。
体調を崩して休んでいるシュウさんの代わりに、私の事を気遣ってくれたホノカさんだった。


「簡潔に言おう。
アカリ様には我が孫と離縁して頂きたい」

そう言って、テーブルを挟んで正面に座っているシャルマ様は一枚の紙を私に差し出した。
その紙は、夫婦が離縁する際に互いが署名する書類。


何を言われても引くつもりも、申し出を受けるつもりもなかった。

もうヴァロンに関わらないでほしい。
と、告げるつもりだった。


「お断りします。
私は、何があっても……」

「このままでは、あいつは死ぬ事になるかも知れませんよ？」

断りの言葉を発しようとした私に、もう一枚紙を差し出してシャルマ様は笑った。

脅しているつもり？
言う事を聞かなければ、ヴァロンの命を奪うという脅しかと思った。


シャルマ様が差し出した紙に書かれた内容を、ハッキリ理解するまでは……。

診断書。
それは、ヴァロンの今の状態を表した診断書。

読み進めていく毎に、辺りが暗くなっていくような感じがして……。
私のシャルマ様への反抗心さえ、奪っていった。


「……ま、詳しい事はそちらの女医さんに聞くといい。
私の言葉よりも、アカリ様は信用も納得も出来るだろうからね」

シャルマ様の言葉に、私の隣に座っていたホノカさんの身体がビクッと揺れる。


「……ホノカちゃん。
シャルマ様が言った事は本当なのかね？」

私の代わりに尋ねたのは、マスターさん。

マスターさんに促されて、ホノカさんはゆっくりとヴァロンの現状について話してくれた。
このままでは、脳に出来た腫瘍のせいで身体にいつか不自由が出る事。
良性か悪性か調べる為に外国での手術が最善だが、その手術に必要な輸血が……。ヴァロンにとって難しい問題だという事も。