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第18章(2)マオside
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しおりを挟む「敵レーダーを探知しました」
「舵そのまま。すぐには当たらない」
逆探要員の報告を受けて連合水雷戦隊死番艦雪風の艦長寺内は命じた。
「そろそろかな」
艦長は呟くと命じた。
「取舵、レーダー波の方向へ向かえ」
艦が旋回を始めると前方から白い航跡が見えてきた。
敵の魚雷だったが、正対しているため面積が小さく、雪風の真横を通り過ぎ命中はなかった。
「逆探、敵艦隊の位置は?」
「電波の発信はほぼ正面です」
「面舵五、このまま敵艦隊に近づく」
しばらくして見張り員が叫んだ。
「敵艦発砲!」
「面舵一杯」
静かな声で寺内命じる。しばらくして砲弾が雪風の周辺に着弾する。
闇夜の中に白い水柱が上がるが、実戦経験が少ない新人を除いて静かだった。
「安心しろ、うちの艦長は回避の名人だ。当たることはない」
ソロモンから乗っている古参が怯える新兵に呟く。
「しかし、死番艦でしょう」
水雷戦隊の先頭に付く艦のことを死番艦と呼んでいる。
敵のレーダーに真っ先に発見されもろに砲撃を食らうために新選組の死番を連想するため死番艦と呼んでいた。
おびえる新人と逆に古参は余裕の笑みを浮かべた。
「ああ、敵も正確な射撃を撃ってくるからな。結構来るぞ」
「じゃあなんで回避行動をしないんですか」
「初弾で命中することはないからな。もっと狙ってもらわないと避けられない」
何を言っているんだおいう表情で新人は古参をそして艦長を見る。
艦長は前方の敵艦隊をじっと見つめていた。
「そろそろ当ててくるな」
呟いたとき、前方の艦隊が発砲した。
「面舵一杯!」
艦長の命令で操舵員が舵輪を大きく回して艦を急旋回させる。
近距離だったがあらかじめ当て舵をして旋回しやすいようにしていた。
敵の射線を躱して避ける。
「電探、敵の位置は?」
「正面ですおよそ一万二〇〇〇」
「なかなかの使い物だな」
寺内はにやりと笑った。
戦前、日本海軍は電探に熱心ではなかった。せっかく視界が効かない夜に電波を放てば敵に悟られてしまう。
いわゆる<闇夜の提灯>論だ。
だが、電探をはじめとする電波装備を熱心に押す北山重工の総帥北山茂は諦めなかった。
航海用の電探として売り込みを図ったが海軍は一度却下したものを受け入れようとはしなかった。
しかし北山は諦めない。
海軍に見切りを付けた北山は鉄道省に行った。
当時の大日本帝国は各地に鉄道を敷設し交通網の充実を図っていた。
だが、島国である日本は本土でさえ四つの島に分かれており、トンネル技術も戦前にようやく関門海峡トンネルを開通させることが出来たばかりだ。
他の島や大陸との連絡は全て鉄道連絡船であり関釜――下関~釜山、青函――青森~函館などの航路が鉄道連絡航路として設定し連絡船を運航することで確保していた。
だが、連絡船は船であるにも関わらず鉄道との接続のため、鉄道並みの定時性を求められた。
海の気象、それも突発的に変わりやすい天気に大きく影響を受けやすい船に船より気象に強い鉄道並みの定時性を求めるのは酷だった。しかし、定刻ダイヤで運転される鉄道と結ぶ以上は船にも鉄道並みの定刻を求められた。
さすがに台風では欠航だが雨や霧、夜間などの視界不良は定刻通りの航行に支障を来し遅れがちであった。
そこへ北山が電探を売り込みを図った。
連絡船に電探を搭載して霧や夜間でも見えるようにした。さらに電波灯台や陸上電探を整備して航路の安全を確保し連絡船の定時性を向上させた。
鉄道省はえらく感謝し、北山の電探の大量発注を行った。
そして、連絡船の航路上の船舶に衝突防止のため電探の搭載を主張するようになる。
連絡航路を横断することの多かった海軍はこの声に耳を閉ざすことは出来ず、結局航海用として電探の搭載を開始。次いで夜間、荒天時の移動や訓練に有効――特に事故および衝突回避に必要との評価を受け、全艦艇へ装備を開始した。
当初夜戦での電探使用は行われなかったが、ソロモン海の戦いで熾烈な夜戦が幾度も起こり、レーダーを使用する米軍に黒星が連続するようになると電探を使用しての索敵が多用されるようになりソロモン戦後半は日本海軍が盛り返した。
「砲術、適当に打ち返せ。弾種星弾。敵艦の向こうに落とせ」
「宜候」
雪風は連装三基の主砲から次々と星弾――照明弾を放っていく。
最大射程で放たれた星弾は敵艦隊の背後、駆逐艦の背後で皓々と光り、彼らのシルエットを浮かび上がらせた。
「よし、丸見えだな」
「ですがこう回避行動が多いと射撃が出来ません」
遠くの敵を撃つのさえ至難の業だ。回避行動で左右に旋回していたら余計に当たりにくい。
「大丈夫だ。時雨が、佐世保の時雨達が必ずやってくれる」
「舵そのまま。すぐには当たらない」
逆探要員の報告を受けて連合水雷戦隊死番艦雪風の艦長寺内は命じた。
「そろそろかな」
艦長は呟くと命じた。
「取舵、レーダー波の方向へ向かえ」
艦が旋回を始めると前方から白い航跡が見えてきた。
敵の魚雷だったが、正対しているため面積が小さく、雪風の真横を通り過ぎ命中はなかった。
「逆探、敵艦隊の位置は?」
「電波の発信はほぼ正面です」
「面舵五、このまま敵艦隊に近づく」
しばらくして見張り員が叫んだ。
「敵艦発砲!」
「面舵一杯」
静かな声で寺内命じる。しばらくして砲弾が雪風の周辺に着弾する。
闇夜の中に白い水柱が上がるが、実戦経験が少ない新人を除いて静かだった。
「安心しろ、うちの艦長は回避の名人だ。当たることはない」
ソロモンから乗っている古参が怯える新兵に呟く。
「しかし、死番艦でしょう」
水雷戦隊の先頭に付く艦のことを死番艦と呼んでいる。
敵のレーダーに真っ先に発見されもろに砲撃を食らうために新選組の死番を連想するため死番艦と呼んでいた。
おびえる新人と逆に古参は余裕の笑みを浮かべた。
「ああ、敵も正確な射撃を撃ってくるからな。結構来るぞ」
「じゃあなんで回避行動をしないんですか」
「初弾で命中することはないからな。もっと狙ってもらわないと避けられない」
何を言っているんだおいう表情で新人は古参をそして艦長を見る。
艦長は前方の敵艦隊をじっと見つめていた。
「そろそろ当ててくるな」
呟いたとき、前方の艦隊が発砲した。
「面舵一杯!」
艦長の命令で操舵員が舵輪を大きく回して艦を急旋回させる。
近距離だったがあらかじめ当て舵をして旋回しやすいようにしていた。
敵の射線を躱して避ける。
「電探、敵の位置は?」
「正面ですおよそ一万二〇〇〇」
「なかなかの使い物だな」
寺内はにやりと笑った。
戦前、日本海軍は電探に熱心ではなかった。せっかく視界が効かない夜に電波を放てば敵に悟られてしまう。
いわゆる<闇夜の提灯>論だ。
だが、電探をはじめとする電波装備を熱心に押す北山重工の総帥北山茂は諦めなかった。
航海用の電探として売り込みを図ったが海軍は一度却下したものを受け入れようとはしなかった。
しかし北山は諦めない。
海軍に見切りを付けた北山は鉄道省に行った。
当時の大日本帝国は各地に鉄道を敷設し交通網の充実を図っていた。
だが、島国である日本は本土でさえ四つの島に分かれており、トンネル技術も戦前にようやく関門海峡トンネルを開通させることが出来たばかりだ。
他の島や大陸との連絡は全て鉄道連絡船であり関釜――下関~釜山、青函――青森~函館などの航路が鉄道連絡航路として設定し連絡船を運航することで確保していた。
だが、連絡船は船であるにも関わらず鉄道との接続のため、鉄道並みの定時性を求められた。
海の気象、それも突発的に変わりやすい天気に大きく影響を受けやすい船に船より気象に強い鉄道並みの定時性を求めるのは酷だった。しかし、定刻ダイヤで運転される鉄道と結ぶ以上は船にも鉄道並みの定刻を求められた。
さすがに台風では欠航だが雨や霧、夜間などの視界不良は定刻通りの航行に支障を来し遅れがちであった。
そこへ北山が電探を売り込みを図った。
連絡船に電探を搭載して霧や夜間でも見えるようにした。さらに電波灯台や陸上電探を整備して航路の安全を確保し連絡船の定時性を向上させた。
鉄道省はえらく感謝し、北山の電探の大量発注を行った。
そして、連絡船の航路上の船舶に衝突防止のため電探の搭載を主張するようになる。
連絡航路を横断することの多かった海軍はこの声に耳を閉ざすことは出来ず、結局航海用として電探の搭載を開始。次いで夜間、荒天時の移動や訓練に有効――特に事故および衝突回避に必要との評価を受け、全艦艇へ装備を開始した。
当初夜戦での電探使用は行われなかったが、ソロモン海の戦いで熾烈な夜戦が幾度も起こり、レーダーを使用する米軍に黒星が連続するようになると電探を使用しての索敵が多用されるようになりソロモン戦後半は日本海軍が盛り返した。
「砲術、適当に打ち返せ。弾種星弾。敵艦の向こうに落とせ」
「宜候」
雪風は連装三基の主砲から次々と星弾――照明弾を放っていく。
最大射程で放たれた星弾は敵艦隊の背後、駆逐艦の背後で皓々と光り、彼らのシルエットを浮かび上がらせた。
「よし、丸見えだな」
「ですがこう回避行動が多いと射撃が出来ません」
遠くの敵を撃つのさえ至難の業だ。回避行動で左右に旋回していたら余計に当たりにくい。
「大丈夫だ。時雨が、佐世保の時雨達が必ずやってくれる」
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