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第16章(2)アカリside

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「ジュゼさん、本当にありがとうございました!」

「私は何もしておりません。主人の命に従ったまでにございます。
お礼は、どうかアラン様に言って差し上げて下さい」

お祖父様が手配してくれた迎えの馬車に私を乗せながら、ジュゼさんはそう言って微笑んでくれる。
けれど、何か言いたげに私をずっと見つめていた。

「?……ジュゼさん?」

「本当は……。
本当は、私は貴女様にはアラン様のお傍に居て頂きたい」

思わず声を掛けた私に、ジュゼさんは真剣な瞳になると自分の気持ちを伝える。

「私はあのお方を幼い頃より知っております。その幼少期が、同年代の子供達とは全く違う過酷なものだった事も……。
お父上様には特別に見てもらえず、お母上様もご自害され、そして祖父のシャルマ様の厳しい教育の元、笑顔のない日々……。
そんなアラン様にとって、貴女様はやっと見付けた光のようなもの。
貴女様と居る時のアラン様は、今までに見た事がないくらい幸せそうなのです」

「っ……」

アラン様の事を想うジュゼさんの言葉は、痛いくらいに伝わってきて、私の胸をチクンッと刺した。


だって私も知ってしまったもの。
あの人の本当の優しさを……。


『言えばいい。貴方は私の夫なのだ、と……。
兄上に本当の事を話して、思い出してもらえ』

港街の乗船場で私を送り出してくれる際に、アラン様は言ってくれた。

『もう、いいじゃないか。我慢しなくても……。
お前は今日まで充分に頑張った。オレが認めてやる』

『難しい事や先の事より、大切なのは今だろう?
……さぁ、行け!兄上を、頼んだぞ』

兄上を頼んだぞーー。

そう私に言った時。アラン様は背を向けていたけど、口調と声で分かった。この人は本当に心の奥底から、お兄さんマオさんを心配しているんだって……。
それに……。

「貴女様とマオ様のご関係は存じ上げております。執事の立場でこんな事を口にするのは、無礼を承知。
……ですが、私は!っ……私にはアラン様の幸せが、1番なのです」

私に訴えるジュゼさんの声、震えていた。
アラン様が本当に冷たい人なら、いくら直属の執事さんと言えどもこんなに主人の幸せを願う事はないだろう。

……
…………。
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