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第10章(3)マオside

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キャナルさんも僕のタキシード姿を見て満足そうに頷くと、何やら”いい事を思い付いた”とでも言う感じで間近にやってくる。

嫌な、予感。


「そうですわね、あとは……。
髪型とこの眼鏡をなんとかしましょうか?」

「!っ……えッ?」

キャナルさんの言葉に、ギクリッと心臓が何かを察したように悲鳴をあげ出した。

「まさか」って思った時には遅くて……。
真ん前に立ったキャナルさんが、僕を暴いていくーー。


「式当日は、この眼鏡はやめてアイレンズに換えましょう!それから……。
お顔がよく見えるように、前髪もこうして上げるようにセットして……」

「っ……っ~~~」

言葉と同時に眼鏡を強引に外されて、キャナルさんの手が、僕の顔を隠している長い前髪を上げていく……。

そして、息が止まりそうな位に緊張が最高潮になった時。
僕の気持ちとは反対に、見ていた周りの係の女性からは「キャーッ!」という黄色い歓声が上がった。


「ま、まぁ!っ……」

1番間近で僕を見ていたキャナルさんは、顔を真っ赤にして、ぽ~っと見上げたまま固まる。


「う、嘘っ……カッコいい~」

「なんで普段あんな恰好してるのっ?勿体な~い!」

係の女の子達も、僕を見て頬を染めながらヒソヒソ話していた。


その光景に、息が、つまる。

この時、僕にはみんなの言葉なんて聞こえていなかったのだ。
自分に自信がなく、本来の姿を祖父から「醜い!隠せ!」と言われ続けていた僕にとって、今の状況は最悪だった。

チラチラと見られるのは、好奇や嫌悪の眼差し。
ヒソヒソと話されるのは、良くない事を言われているという認識しかなかったから……。


そんな僕に、追い討ちをかける、記憶の断片ーー。

『見ろよ、コイツ!』

『なんだ?この髪と瞳の色!』

ッ……ヤメテ、ミナイデッ……。


『これは珍品だ!高く売れる!』

『おら!お客様に顔を見せろ!!』

無理矢理に顔を見せられた”あの日”の光景と、今が、被る。
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