片翼を君にあげる②

☆リサーナ☆

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第6章(4)ツバサside

4-7

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《私と契約を結べば、楽になれるぞ》

「……」

能力ちからを自由自在に使える姿こそが、本来の、ありのままの君なんだ》

「……」

《私と契約を結び、全てを受け入れたら、きっとーー……》

ーーパチンッ!

「!……え、っ?」

何かが、弾けるような、音がした。
決して大きな力ではない。まるで静電気が走ったみたいな、小さな力。
でも、その小さな力は、俺に触れようとした天使の手を弾いて、傷付けていた。

一体、何がーー?

"何か"が、俺を天使から退しりぞけようとした。
ハッとして自分の胸元を見ると、服の下で何かが光っている。そこにあったのは、レノアが誕生日プレゼントにくれた、星空のペンダント。

『ツバサが生まれて来てくれて、私はとっても幸せです!』

レノアの声が、聞こえた気がした。

『私、信じてるよ。
来年の今頃、ツバサと「こんな事あったね」って、今を笑って話せるって……信じてる』

信じてるーー。

俺にとって世界中の誰よりも美しいその声が、目を醒ましてくれた。すると、この空間とは違う鮮やかな色で、これまでの記憶が思い浮かぶ。

俺には、生まれてきた事を喜んでくれた愛おしい女性と母さんがいる。可愛がってくれた父さん、優しい姉貴と兄貴、大事な家族と親戚がいる。
友達や、支えてくれる夢の配達人の仲間、大切な人がたくさん居て、過ごして来た日々がある。

能力ちからに悩まされて、人を嫌いになりかけたり。
普通じゃない自分が苦しかったり、辛かったりもした。
レノアの為ならば、例え化け物の能力ちからでも良いと思った。

ーーけど。
今まで自分が生きてきた刻は、全部大切で……。
俺は……。そう、幸せ、だったんだ。

それなのに今ここで天使の能力ちからすがったら、俺は人として生きて来たこれまでの自分を捨てる事になる気がする。だから……。

「ーー契約は、しない」

心の中に光が灯って、その暖かさが全身に広がっていく。
俺は顔を上げて、天使を真っ直ぐに見て言った。
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