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第6章(4)ツバサside
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しおりを挟む《本来、人間の世界でも近親婚は禁じられてるでしょう?
なのに、君の祖父母はその禁忌を破っちゃったんだよね》
「っ……やめ、ろ…………ッ」
聞きたくないーーッ!!!!!
そう思った。
でも、頭の中に直接語り掛けてくる天使の声は防ぐ事が出来ない。耳を塞いでも、無駄なのだ。
《叔母さんと甥っ子の関係に在りながら交わって、子を設けた。それが、君のお父さんだ》
「っ、やめろって言ってんだろーーッ……!!!」
やっとの思いで絞り出した心の声は、怒鳴り声とは決して言えない、弱々しい、まるで子犬が絶対に勝てない相手に吠えるのと同じようだった。
天使はニヤリと笑って、震えながら呼吸を整える俺を見つめている。
《でも、君のお父さんは何故か大した能力はなかったんだよね~。
何で一代飛び越えて、君に天使の血が濃くなったのかはさすがの私でも説明出来ない》
これ以上聞きたくない、と言う俺の気持ちを読み取っていながらも、天使は語るのをやめない。
椅子から立ち上がると、俺の側にやってきた。
《君、今まで生きてきて空腹に悩まされた事ないでしょう?あと、人間が作った食事を美味しいと感じた事がほとんどない筈だ》
「っ?」
《それがね、君が人間よりも天使に近い証拠の一つ。
本来天使は食べ物なんて食べない。太陽の光と風と水……。そう、自然と触れ合っていれば、食事なんて必要ないんだ》
「……」
全ての話を拒否して、なかった事にしたかったのに……。
自分が普通の人間ではない、と確信に突かれる事を言われて、俺は何も否定出来なくなった。
そうしたら、心の震えも、身体の震えも治まってきたけど……。同時に、何かを、失った気がした。
自分が抱いてきた希望の一部を、切り取られたみたいだ。
それは、きっと天使の思惑通りだった。
俺に先祖に嫌悪感を抱かせ、そして自分が普通の人間ではない事に絶望させ……。これまで人間として生きて来た俺に失望させ、自分だけが唯一の味方であり理解者である、と寄り添うつもりだったのだろう。
現に、俺は確かにこの時色んな事に絶望と失望していた。祖父母が何故交わる事になったのかの背景になんて全く頭が回らなくて、ただただ気持ち悪くて、自分にこの血を分けた事に憎しみしかなかった。
このままだったら、俺はこの後差し出された天使の手を取っていたかも知れない。
……けど、…………。
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