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第6章(3)ツバサside
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別荘へ踏み込めば、本当に人間ではなくなってしまうかも知れないーー。
そう思って、鈍った決意を整理するのに数時間かかってしまった。おかげで動物達と別れ別荘の前に戻って来た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
それでも、何とかここまで来られたのは、レノアの存在が俺を支えてくれているから……。
自分の両手を見つめ、グッと握り締める。
なんとなく、感じる。今俺のこの手にたいした能力はなくて、狸の脚を治したのはおそらく俺の能力ではない。
でも、"何か"が俺の中に宿り、いわゆる治癒の能力を使ったのは事実。
その"何か"は、一体何者なのかーー……?
本能と言うのだろうか?
なんとなく分かるのだ。その答えが、別荘にあると言う事が……。
そして、それは遅かれ早かれ知らなくてはいけないと言う事が……、……。
俺は、もう自分が震えていない事を確認すると、ゆっくりと別荘内に足を踏み入れた。
以前よりも決意を固めて来たからだろうか?
あんなに激しかった記憶の怨念は全く聞こえてこず、俺を遮る物は何も無い。むしろ、奥へ、奥へと誘うようにすら感じた。
いつも立ち止まってしまい、踏み込めなかった先へ進む。歩みを止めてしまったら再び決意が鈍り、もう二度と挑む事が出来ないと思った俺は、真っ直ぐに、前だけを見て進んだ。
暫くすると、正面に大きな赤い扉が見えた。ここまで歩いて来る間にも、何処かの部屋に続くであろう扉はたくさんあったのに……。その扉は俺の瞳に特別に映り、何より漆黒の瞳がトクンッ、トクンッ、と脈を打つように反応した。
間違いない、ここだーー。
ようやくここまで辿り着く事が出来た。
俺はドアノブに手を掛けると、ゆっくりとその扉を開けた。
中は薄暗くて良く見えない。
入ってすぐの壁際を探ると、照明のスイッチを見付けた。電源を入れると、天井に吊り下げられていたシャンデリアが光り、部屋の中を明るくしてくれる。
「!……書庫?」
目の前に広がるのは、俺の背よりも遥かに高い、天井いっぱいの高さがある本棚が壁沿い、そして人が通れるスペースを空けてまたずらりと並んだ、学校の図書館よりもすごい空間だった。
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