片翼を君にあげる②

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
134 / 231
第6章(3)ツバサside

3-1

しおりを挟む

胸の中に灯った光が、臆病な俺の心を修復してくれたような気がした。

今なら何でも出来る気がするーー。

俺はズボンのポケットにポケ電をしまうと、別荘を睨むように見つめる。
今日こそ進めなかった場所へ足を踏み入れ、能力ちからに関するどんなヒントでもいいから掴んで帰るんだ。
そう心に決めて、再び別荘内へ向かおうとするとーー……。

《ーーツバサ!》

「!……え?」

名前を呼ばれて歩みを止める。
すると、一羽の小鳥がとても慌てた様子で俺の周りを飛び交って言った。

《たいへんたいへん!おねがい、たすけて!》

……
…………。

詳しい事はよく分からなかったが、「こっちこっち」と案内する小鳥の跡を追う。暫く走り、茂みを抜けると、正面に見えた崖の下で「だいじょうぶ?」「だいじょうぶ?」っと言いながら動物達が溜まっていた。
何だ?と、思い、動物達が溜まっている場所まで行き、その取り囲んでいる中心に目をやるとーー……。

「!!っーー……おい!大丈夫かっ?!」

一匹の狸が、大きな岩に下半身を挟まれていた。
おそらく崖崩れに逃げ遅れて巻き込まれたのであろう。

「待ってろっ……すぐに退かしてやる!」

幸いその岩は、人間の俺ならば退かせる程の大きさと重さだった。狸も、まだ息はある。
でも、岩を退けて、俺は思わずゾクリッとしてしまった。

潰された両脚。
おそらく骨は粉々に折れて、出血もまだ止まっていない。
今から急いで山を降りて病院に連れて行っても、命が助かるかわからない。それに、この脚は……。
素人である俺が見ても、もう元に戻らないのが分かってしまう程酷い怪我だった。
自力で生きてはいけない事。それは野生動物にとって例え命が助かっても、絶望を意味する……。

《ツバサ、どうしよう?》
《すごくいたそうだよ……》
《たぬきさんくるしそう。しんじゃうの?》

死ぬーー……?

その言葉が、妙に頭に響いた。
ドクンッ、ドクンッと全身が心臓になったように震えて……。何だか、昔……。まるで似たような光景を見た事があるかのような、錯覚に陥る。

《たす……けて、……》

ーー死なせて、たまるかッ!!

"それ"は自分の心の叫び声なのに、誰かが同時に叫んだようにも感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

サイキック・ガール!

スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』 そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。 どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない! 車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ! ※ 無断転載転用禁止 Do not repost.

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...