片翼を君にあげる②

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
133 / 231
第6章(2)ツバサside

2-9

しおりを挟む

「……少し前、白金バッジを賭けた下剋上があったんだ」

『え?』

「チャンスだと思った。
こんなに早く白金バッジの人と下剋上出来るなんて、ラッキーだと、思った」

ミライさんの時は、いきなりで驚いたけど、下剋上の内容が"演技なら"って思った。
瞬空シュンクウさんの時は、ナツキさん、シャロンさんからの連続の成功で勢い付いてて"このまま白金バッジも取れる"って、思ってた。事務所で、瞬空シュンクウさんと顔を合わせるまでは……。

「……っ、でも。駄目、だったんだ。
二回とも、どっちも失敗して……。一回は、ほんと……全然、駄目駄目で……っ」

甘かった。
勝負内容が自分の苦手分野である格闘じゃない事を、相手ミライさんの得意分野である格闘じゃない事を、俺は喜んでたんだ。
瞬空シュンクウさんはミライさんより下だから、心の何処かでどうにか出来ると……思ってたんだ。

自分自身と向き合えない雑魚のクセに遥か上を見て、スカスカの足元のまま背伸びして飛び越えようとしていた。

「っ……ごめん」

『……』

「すぐに迎えにいけなくてっ……ごめ、……」

『ーーすごいね、ツバサ。
もう白金バッジの人と下剋上してるの?』

「!っ、……え?」

耳を疑う。
謝る俺に聞こえてきたのは、それはそれは、綺麗な音だった。そしてその声は、隙間から溢れ出した弱味を中和して、痛みを癒やして、心の中に浸透する。

『焦る必要、ないと思う』

「……」

『だって、まだ始まったばかりなんだよ?
それに私、音信不通だったあの頃より、今とっても幸せなの』

「……」

『ツバサとちゃんと繋がってるんだって、思えるから』

「……っ」

『ありがとう、ツバサ』

彼女は、とても些細な事に幸せを感じてくれていた。
そして、悩んでいた、暗闇にいた俺を、導いてくれる。

『私、信じてるよ。
来年の今頃、ツバサと「こんな事あったね」って、今を笑って話せるって……信じてる』

「っーー……レノア」

パァッと、何かが弾けて心に光が灯る。
レノアが目の前にいる筈がないのに、彼女をすごく身近に感じた。

ーーそうだ。
何を迷ってるんだ?
何を、怖がってたんだ?

俺がやるべき事はレノアを自由にしてやる事。
レノアの笑顔が消えてしまう事に比べたら、怖いものなんて何もない。

「……。ありがとう、レノア」

ようやく歩き出せそうな俺がそう言うと、急に電波が悪くなったのか通話はプツリと切れた。
ポケ電を耳から離し、右手で握り締めながら俺の中に浮かぶ想い。

そうだ。恐るな、前に進め。
レノアを救えるのならば、それが例え化け物の能力ちからでも構わないじゃないかーー……。

彼女を救いたい。
その強い想いから俺は、そう、思い始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

生産職がやりたい令嬢は家出する

新川キナ
ファンタジー
よくある異世界転生から始まったはずだった。 なのに、どうしてこうなった? 生産職を希望したのに生まれた先は脳筋の貴族の家。 そして貴族子女なのに筋肉を鍛えさせられている。 「筋肉。筋肉。筋肉を鍛えろエレス!」 「はい。お父様!」 「筋肉は全てを解決してくれる!」 「はい。お父様!」 拳を振るい、蹴り足を鍛えて木の棒を振り回し鍛錬をする毎日。でも…… 「こんな生活は嫌だ! 私の望んだこと違う!」 なので家出をすることにした。そして誓う。 「絶対に生産職で成功して左団扇で暮らすんだ!」 私の新生活が始まる。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

処理中です...