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第6章(2)ツバサside
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しおりを挟む緑の溢れる森の中。
暖かい陽の光が葉の隙間から射し込んできて気持ちいい。絶好の散歩日和だ。
河原に行ってその水で顔を洗っていると、俺に声を掛けながら小鳥が肩に止まる。
《ツバサ、おはよう》
「!……おはよう」
顔を上げて袖口で水滴を拭うと小鳥達が次々に集まって来て、頭や肩や腕に止まり俺に挨拶をしてくれた。
眼帯もアイレンズも外して、漆黒の瞳を解放したありのままの俺。人が溢れた場所では決してなれない姿で、俺は今過ごしている。
ここは、父方の曾祖父さんが所有していた山奥にある別荘。今散歩している場所も、所有地の一部だ。
曾祖父さんが亡くなってから全く使われていないが、俺の叔父にあたるアランが管理していて、数日前から暫く身を置かせてもらう事にした。
ただの休暇ではない。
自分の能力を……。
いや、ありのままの自分を、受け入れる為に……。
《ね、ツバサうたって》
《うたってうたって》
《ツバサのこえ、キレイだからすき》
小鳥達がそう言いながら俺の周りを飛び交う。
別に自分が特別歌が上手いとは思ってないけど、裏表のない心の声でそう言われると応えてやりたいと思えた。
「いいよ。なら、一緒に歌おう?」
《さんせい~》
《うたううたう~》
この場所がもしも人が溢れる場所だったら、周りから見たら俺はかなりおかしな奴だろう。
でも、これが俺にとっては普通。普段の方が、自分を偽って生きてるんだよな。
小鳥達と歌っていると、いつの間にかリスや兎や狸、猪や鹿、山に住む動物達が周りに集まってくる。
まるで飼い犬や飼い猫かのように、俺にはみんな甘えて擦り寄ってくる。
「……俺、おかしいのかな?」
嬉しい気持ちと、自分の知る人間とは違う自分に複雑な気持ちになり、思わずそう呟いた。
《おかしい?なにが?》
《ツバサはおかしくないよ》
《ツバサはキレイだよ》
《うん、キレイ!それにいいにおいがする~》
《ね、ツバサ!ずっとここにいなよ~》
《そうだよ。ずっと、わたしたちといっしょにいよ~》
「……。ありがとう」
心から俺が居る事を喜んでくれて、傷付いた俺の心を癒やしてくれようとしていた。
でも、俺がここに来たのは甘える為じゃない。
前に進む為に、ここへ来たのだ。
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