109 / 231
第5章(5)ジャナフside
5-1
しおりを挟むここは夢の配達人隠れ家内にある訓練施設の闘技場。
中央には対戦者達が戦える広い運動場のようなスペースがあり、その周りを低い石壁が円形に覆い、その外側は見学者用のスペースになっている。
ボクは当然、見学者用のスペースに最高責任者とノゾミさんと。中央の対戦者達用のスペースに、ツバサと瞬空さんが居る。
「まずは、武器をお選び下さい。
ちなみに私が使うのはこれ。ツバサ様は存じておられるでしょうが、我が国で主流に使われる曲剣です」
瞬空さんは腰に差していた剣を手に取って見せながら、ボク達の方にも聞こえる位の声でツバサに言った。
曲剣。ドルゴア国でも扱う人がいるから、見た事があった。
それは鋭い刃と独特の曲がった刀身のフォルムが特徴の剣。武器によっては直剣を凌ぐ攻撃速度を持っておりいて、全体的に軽く、でも技量を求める物が多い。
主な攻撃手段は回転攻撃や振り回しによる斬撃。
「曲剣を使った事がないツバサ様に、同じ物を使って勝負とは言いません。
そちらに剣、槍、弓、銃、など。あらゆる武器を一通りご用意しております。どうぞ、お好きな物をお選び下さい」
そう、色んな武器が置かれた台の上をツバサに見せながら言う瞬空さんの口調は、丁寧だけど「貴方が何を使っても関係ない」と、言っているように聞こえた。
一方のツバサの表情は、ボクの位置からは後ろ姿でよく分からない。
その光景を見つめながら、ボクはここに着くまでに交わした最高責任者との会話を思い出した。
……
…………。
「あのっ……。その、ツバサが負けるって分かっているなら、何で……」
「ーー瞬空との下剋上を決めたのか?……ですか?」
「!……はい」
最高責任者はツバサの事を応援してくれているんだと思っていた。だから、負けると分かっているのに勝負させるのであれば、何だか複雑な気持ちだったんだ。
それに下剋上を失敗すればまた改めて再戦という手間も時間もかかるし、何より、その結果がサリウス様に伝わればツバサの評価や夢の配達人の評判だって落ちてしまう可能性があるのに……。
そんな考えを抱いていると、最高責任者が言った。
「良い質問ですね。
ジャナフ、君は自分が思っている程馬鹿ではありません。もう少し自分に自信を持ちなさい」
「えっ?……あ、はい!
……。!……じゃなくて、っ……」
「ツバサには、弱点があります」
「!……弱点?」
予想外の時に褒められて、一瞬ホワッとしてしまったがすぐに話を元に戻そうとすると、最高責任者は言葉を続けた。そして、ボクに質問をする。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる