片翼を君にあげる②

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
78 / 231
第4章(4)ミライside

4-6

しおりを挟む

さっきまであんなに距離を保っていたのに、何故ーー……?

色んな事が一度に起こって、動揺したままの僕。
そんな僕に、ツバサが言った。

「……ちゃいの?」

「えっ?」

「いちゃい、いちゃい、なの?」

いちゃい、いちゃいーー?
……痛い、痛い、か?一体、何がーー……。

「!!ッーー……見るなッ!!」

バッと掴まれていた腕を引いて、慌てて手首を隠すようにもう一方の手で押さえた。

見られた、見られたっ、見られたッ……!!

隠した手の下にあるのは、誰にも言えない秘密。死にたくても死にきれない自分が出来た、精一杯の行動の傷だった。
ずっと長袖で隠してきていたのに、いつの間にか袖口のボタンが外れていたんだ。

っ……落ち着け、落ち着け!
相手は子供だ、ただの傷だとしか思わないッ。

必死にそう言い聞かせて、動揺した心を落ち着かせようとした。
けれど、そんな僕をよそに……。ツバサはそっと、僕の胸の中心に手を触れる。

「!っ……」

初めは、その行動が理解出来なかった。
ただ、あんなに僕を避けていたツバサが、腕を振り払われて、怒鳴り散らされても傍に居るという現実が、信じられなかった。そして……。

「いちゃい、いちゃい……」

「え?」

「いちゃい、いちゃいの、ちょんでけ~!」

「っーー……!!」

痛い、痛いの、飛んでけ~!

小さな掌で心を撫でられて、そう言われた瞬間。
僕の目から、音もなく静かに涙が溢れ落ちた。

ツバサが言っていた「痛い」を指す意味は、手首の傷ではなかった。
心の、傷。ずっとずっと僕が隠してきた、誰にも言えない、僕自身にも見えていない傷だった。

……ああ、そっか。
僕はずっと、辛かったんだ。

いや、本当は分かっていた。
けど、さらけ出して甘える事が出来ないから、見えないフリをして……。

本当は、ずっと誰かに気付いて欲しかった。
頑張ってる自分、言えない自分、嘘吐いてる自分に、気付いてほしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

サイキック・ガール!

スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』 そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。 どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない! 車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ! ※ 無断転載転用禁止 Do not repost.

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...