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第4章(3)ミライside
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………でも。
その日は突然やって来た。
ヴァロンさんが、夢の配達人を引退ーー。
突然、何の前触れもなく当時最高責任者だった祖父ギャランの元に返って来た白金バッジを見た瞬間。心臓を刃物で貫かれたように痛んだ。
一つ目の夢が、砕けたーー。
ヴァロンさんが特別な理由もなく、何も言わずに辞める人じゃないと分かっていた。
でも、だからこそ……。仕方ないと分かっていたからこそ、この時の気持ちを何処に向けていいのか分からなかった。
暫くの間、塞ぎ込んで部屋から一歩も出なかった。
そんな僕を見て、父さんと母さんはとても心配していた。
両親の悲しそうな顔は見たくない。
心配をかけたくない。
そんな想いから徐々に外に出るようになって、修行を再開した。
でも、胸にはポッカリと穴が空いたようで……。足りない物を埋めるように、ヴァロンさんの過去の活躍が記された雑誌や新聞を片っ端から読んだ。
そして、一つの希望を見付けた。
『ミライ、俺を超えていけ』
ヴァロンさんに言われた言葉、約束。
ヴァロンさんは最年少で白金バッジを取得した夢の配達人。
ならば、僕がそれよりも早く白金バッジを取得したら?
僕がヴァロンさんの最年少記録を塗り替えたら?
何かが、変わると思った。
それ以外、ないと思った。
あの胸の高鳴りを、もう一度感じるには。
ゾクゾクと胸が震える、あの快感を味わうにはーー……。
その日から、ただただがむしゃらに、最年少で白金バッジを取得する為に走り出した。
……
…………。
月日が過ぎて、僕は14歳で夢の配達人としてデビューした。
誰よりも仕事をして、何よりも仕事に打ち込んで……。1年後には、金バッジの夢の配達人になった。
上へ上へ行けば行く程難しい任務もあったし、ハードなスケジュールの中でとてもやり甲斐はあったけど……。やっぱり、ヴァロンさんと居た時ほどの満たされた気持ちが感じられる事はなかった。
でも、あと少しだーー。
金バッジの夢の配達人になった今、あとは白金バッジを取得するのみ。
白金バッジをこの手に出来たら、もう一度自分の世界が変わる気がしていたんだ。
ヴァロンさんと同じ景色が眺められる場所に行けたら、きっとーー……。
……
…………けど。
二つ目の夢も、砕かれるーー。
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