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第3章(2)ジャナフside
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千秋楽の舞台が開演したーー。
今日で最後、と言う事からいつもとは違う緊張感が漂っていたけれど、ボクがドキドキしているのはそのせいじゃない。
三十分程前にコハルさんの控え室でのツバサとのやり取りがあったからだ……。
大丈夫、だよねーー?
自分に言い聞かせるように心の中で問い掛けた。
舞台はいつも通り始まって、今のところ順調。桜の姿をしたツバサもずっと脇でスタンバイしてるし、表情もいつもと変わらない。
きっとボクが彼を助けなくても、ナツキさんや他の誰かに協力を要請していて、新しい作戦も上手くいく。
大丈夫。大丈夫ーー。
そう心の中で呟きながら、ボクはまた逃げようとしていた。
……
…………けれど。
「ーーツバサ!どう言う事だッ!!」
舞台が始まって中盤に差し掛かった時。
舞台脇でナツキさんがツバサの肩を掴んで詰め寄った。その様子にボクも、近くに居た裏方の人達も驚く。
「ここからはお前が演じる手筈だっただろうっ?なのに、何故コハルが舞台に立ってるっ?!」
公演中という事もあって一応声を抑えてはいるが、ナツキさんの怒りは充分に伝わってくる位の迫力があった。眉間にシワを寄せながら眉毛はつり上がり、顔は歪んでいる。
でも、普段は優しいナツキさんが見せるその姿に皆が動揺する中、ツバサは冷静に答えた。
「全てコハルさんに演じてもらいます」
「!……なに?」
「今日の舞台も、最初から最後までコハルさんに演じてもらいます」
その言葉には以前の作戦しか知らない裏方の人達と、そしてナツキさんも驚いていた。
それを見て、ボクの胸はドクッと締め付けられる。
ナツキさんも、作戦変更を知らなかったんだーー。
そう目の当たりにしたら、
『お前にしか頼めないんだ。頼む』
ああ言ってくれたツバサの気持ちに、胸が痛んだ。
ーーーお前には無理だよーーー
否定されて、笑われていたあの時よりも……ずっとずっと、胸が苦しくなった。
千秋楽の舞台が開演したーー。
今日で最後、と言う事からいつもとは違う緊張感が漂っていたけれど、ボクがドキドキしているのはそのせいじゃない。
三十分程前にコハルさんの控え室でのツバサとのやり取りがあったからだ……。
大丈夫、だよねーー?
自分に言い聞かせるように心の中で問い掛けた。
舞台はいつも通り始まって、今のところ順調。桜の姿をしたツバサもずっと脇でスタンバイしてるし、表情もいつもと変わらない。
きっとボクが彼を助けなくても、ナツキさんや他の誰かに協力を要請していて、新しい作戦も上手くいく。
大丈夫。大丈夫ーー。
そう心の中で呟きながら、ボクはまた逃げようとしていた。
……
…………けれど。
「ーーツバサ!どう言う事だッ!!」
舞台が始まって中盤に差し掛かった時。
舞台脇でナツキさんがツバサの肩を掴んで詰め寄った。その様子にボクも、近くに居た裏方の人達も驚く。
「ここからはお前が演じる手筈だっただろうっ?なのに、何故コハルが舞台に立ってるっ?!」
公演中という事もあって一応声を抑えてはいるが、ナツキさんの怒りは充分に伝わってくる位の迫力があった。眉間にシワを寄せながら眉毛はつり上がり、顔は歪んでいる。
でも、普段は優しいナツキさんが見せるその姿に皆が動揺する中、ツバサは冷静に答えた。
「全てコハルさんに演じてもらいます」
「!……なに?」
「今日の舞台も、最初から最後までコハルさんに演じてもらいます」
その言葉には以前の作戦しか知らない裏方の人達と、そしてナツキさんも驚いていた。
それを見て、ボクの胸はドクッと締め付けられる。
ナツキさんも、作戦変更を知らなかったんだーー。
そう目の当たりにしたら、
『お前にしか頼めないんだ。頼む』
ああ言ってくれたツバサの気持ちに、胸が痛んだ。
ーーーお前には無理だよーーー
否定されて、笑われていたあの時よりも……ずっとずっと、胸が苦しくなった。
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