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第2章(3)ツバサside
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しおりを挟む「改めて、明日からどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。
コハルさんが安心して演じられるよう全力を尽くします。だから、どうか安心して下さい」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるコハルさん。
しかし、顔を上げて次に顔を合わせた時。彼女の瞳は迷いがあるかのように揺れていた。
そして、自分で自分の手を握り締めながら、言い辛そうに口を開く。
「あのっ……、ツバサさん」
「はい」
俺には、その次に続く彼女の言葉が何なのか、大体予想が付いていた。
それこそが、俺がしていた"気掛かり"だから……。
「千秋楽の公演、私が自分で演じては駄目ですかっ?」
コハルさんの言葉は、俺の予想していた通り。
「ツバサさんの演技に不満がある訳でも、代役に不安がある訳じゃありませんっ……。
ただ、っ……やっぱり最初から最後まで自分で演じきりたいんです!」
純粋な彼女の想い。
今回の任務を引き受けてから今日まで稽古を共にして、彼女が演技が大好きな事、また"桜という役をどれだけ愛して大切にしているかを側で見てきた。
おまけにコハルさんが桜の役を演じる事が出来るのは、おそらくこの夏の公演が最後かも知れない。彼女は25歳。いくら見た目が若くても、大人の女性の部類である彼女が18歳である桜を演じられるのにはそろそろ限界が近付いていた。
役者にとっては辛いかも知れないが、いつか必ず訪れるステップアップ。そうプラスに考えるべきなのだが、最後の千秋楽が自分で務める事が出来ないのは悔しいはずだ。
「でもっ、それは危険だよ!君に何かあったら、お兄さんや劇団のみんな、ファンのみんなだってきっと悲しむ!
ツバサやナツキさんが考えてくれた通りにするのが1番だと、思うけど……、……」
俺の後ろにいたジャナフがコハルさんの言葉に驚いたように発言する。
が、彼女の気持ちも察してか、すぐに口籠もった。
確かに。
当初決めた予定通りにするのが1番の安全策。急な予定変更は余裕を無くし、些細なところからミスが起こり兼ねない。
……しかし。
依頼人の夢を叶えるのが、夢の配達人の仕事。
依頼人の想いを優先するのか、仕事の成功率を優先するのかーー……。
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