スノウ2

☆リサーナ☆

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番外編①紫夕side

①-6-3

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紫愛シアはね、きっと待ってるんだ。今も、雪さん母さんは何処かで生きてて……いつか、帰って来るんだ、って」

ヤバい、と思って熱い目を手で覆おうとした時にはもう遅くて、俺の目からは涙が溢れていた。

そして、気付くんだ。
ゆきが居なくなって、誰よりも前に進めてなくて、未練たらしくしていたのは、俺自身だ、と……。
写真や想い出の品を人目に付かないよう隠して、ゆきの存在を遠ざけて、現実を受け入れていなかったのは紫愛シアよりも自分。
誰よりも……。母親や妻と言う存在を求めて、弱っていたんだ。

紫愛シアはとっくに、乗り越えていたのにーー……。

情けない。頼りない。
そう思われたくなくて、ゆきの存在を隠す事で、見せないようにしていた。
俺は紫愛シアの為ではなく自分の為に、ゆきを封印しようとしていたんだ。


久々に流した涙は、まるでその分溜まっていたかのようになかなか止まらなくて、俺は暫く俯いていた。
すると、「ぱぁぱ?」と言う声と共に、小さな掌が俺の頭をそっと撫でる。
顔を上げると、目を覚ました紫愛シアが、目をぱちくりさせて俺を見ていた。
そんな紫愛シアの目は、泣き過ぎて赤くて……。更に左手の甲も、俺が叩いたせいで赤くなっていた。それなのに……。

「いちゃいの?」

「っ、……」

「いっちゃいのー、とんじぇけー!」

俺の頬に触れて、小さな手をバンザイするように大きく上げて、そう言ってくれた。

「っ、紫愛シア……!」

愛おしさが、込み上げる。
俺は紫愛シアを抱き寄せて、そのままぎゅーっと胸に抱いた。

「っ……ご、めん!
ごめんな?……紫愛シアッ」

抱き締めながら何度も何度も、俺は紫愛シアに謝り続けた。
何も言わずに、ぎゅっと小さな両手が俺の服を握り締めてくれて……。それが嬉しくて、暫く、俺の涙は止まらなかった。

……
…………。
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