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最終章(2)紫夕side
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しおりを挟むそんな俺と雪が一緒に居る所を目撃されれば、完全にアウト。森の中の家だって、「マリィの家」って事にして通してるんだ……。
だから、人気のない場所をただ一緒に歩く事しかしてやれない。
おまけに、総指揮官になってからは職場と家の行き来ばかりだから、決まって会話の内容も仕事の話ばかり。
「……っ、て、わりぃ。
仕事の話ばっかりじゃ、つまらねぇよな?」
でも、そう謝る俺に雪は首を振って笑うんだ。
「ううんっ、嬉しい。仕事の話聞いてると、一緒に働いてた時の事を思い出せるんだ。
オレ、仕事の話をしてる時の紫夕の表情、大好きだよ!」
「っ、雪……」
「もっと聞きたい!
ねぇ、それからどうなったのっ?」
無邪気に、子供がはしゃぐみたいに、目を輝かせて俺を見上げる雪。
そんな雪は、今ではもうすっかり傍目からは女性に見えるであろう。
雪は、紫愛の為に髪は長く伸ばし、毎日綺麗に結えている。「オレ」を「私」って言うのには抵抗があるのかそのままだけど、「ママ」って呼ばせたり、最近は服装や服の色もなるべく女性に見える物を着ていた。
紫愛が成長していく上で、いつか違和感を感じてしまわないようにーー……。
自分の家は普通じゃない、って。
自分の母親がみんなと違う、って思われるのをきっと避けていたんだ。
目の前で着替える事は勿論、お風呂に一緒に入る事もせず、決して紫愛に自分の裸を晒す事を雪はしなかった。
幼い頃の虐待で出来た傷跡を見せたくない事もあるだろうが、1番はやはり性別の事だろう。
少し前、ママと一緒にお風呂に入りたいと駄々を捏ねて愚図る紫愛に、「ごめんね」って謝った時の雪は本当に辛そうで、きっと"自分が母親じゃなかったら……"、とでも思っていそうな雰囲気だった。
そんな雪に気付きながらも、俺は何て言ってやったらいいのか。どうしてやったらいいのか、分からなかった。
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