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第22章(3)雪side
22-3-2
しおりを挟む「帰って……」
オレを見つめる紫夕を、しっかり見上げて伝える。
「オレは、ここに居る。
……一緒には、帰らない」
そう告げたオレの中には、響夜がくれた毎日が浮かんでいた。
オレが涙を流さなくていいように。
傷付いたりしないように。
響夜はいつも、最善を尽くしてくれた。
悪阻で体調が良くない時。赤ちゃんを少しでも身体の中で育てられるよう、胎内の進化を促す薬の副作用でオレが苦しんでた時。
いつも傍に居て、背中を摩ってくれたり、手を握ってくれた。
優しい言葉も。
「愛してる」って言葉も。
「ただいま」も、「美味い」って言葉もないけど……。その行動には、いつもオレへの想いが込もってた。
この前だってーー……。
帰宅した響夜から、珍しく血の匂いがしてオレは問い詰めたんだ。「怪我してるんじゃないの?」って。
でも響夜は「返り血だ」って。頑なに取り合ってくれなくて……。
その翌日、高熱を出してベッドから起き上がれなくなった。
弥夜君が朝日先生を呼んで来てくれてすぐに処置が出来たけど、響夜の左肩には酷い傷があった。
「これは……魔器で斬られた傷だ」
何故、響夜が魔器にーー?
朝日先生の言葉に、オレには疑問しか浮かばなかった。
響夜は強い。きっと今現在、魔器を振るう者の中で1番の存在だろう。
かつては自らの魔器である鬼響に心を支配されていたけど、その呪縛を解いて本来の力を発揮出来る響夜には、オレが今魔器を手にしても勝てる相手ではないだろう。
ーーそう。
響夜が、"自らの意志で戦えるのなら"……、……。
けど。
そう出来なかった状況だったのだ、と悟った瞬間。オレの中に浮かんだ答えは、たった一つしかなかった。
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