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第21章(5)雪side
21-5-5
しおりを挟む暖かい体温。身体には確かに鼓動が響いていて、オレは心から安堵した。
っ、オレの為に……。ごめんね……ッ。
その小さな身体を抱き締めたら、また涙が溢れてきて弥夜君の頬に落ちる。
けど、風磨さんは尚も変わらない。この状況を楽しむような笑い声が、部屋に響いた。
「ハハハハハッ……!!
やはり、また邪魔しに来たね。響夜君」
「……アンタは、何故まだここに居る。親父にここを出て行け、と言われた筈だろう?
アンタにサクヤを渡す計画は白紙だ。今すぐに立ち去らないなら……力尽くで出て行ってもらう」
橘さんに出て行けと言われた。
オレを渡す計画は白紙。
その言葉から、風磨さんが言っていた「許さない」という言葉の意味を理解する。
そして思った。確かに風磨さんがした事は、許される事ではない。でも、その背景にあるのは……。
ーー橘さんが、己の楽しみの為に風磨さんを巻き込んだから……。
風磨さんは利用されたんだ。橘さんの実験や企みを更に盛り上げる為に、ただただ騙されて利用されたんだ。
そう、分かると不憫に思う。……けど。
「そんな事を言うなよ。
橘さんはね、きっと僕を試しているんだ」
もう、元には戻れなかった。
「僕が1人でもやれるか。自分の後継者に相応しいか……。
それを見極める為に、敢えて試練を与えてくれているんだよ!」
己の欲に取り憑かれた風磨さんに、言葉は届かない。
「だから僕は応えなきゃならない。
その為には雪君が必要なんだ。……そう、僕にとっての"サクラさん"が必要なんだ」
橘さんによく似た表情を浮かべて、風磨さんは言った。
ゾクリッと、身体が震える。
そして、痛感した。例えもし仮に橘さんがこの世からいなくなっても、同じ想いや意志を継ぐ人がいて……。オレのような存在が、また産み出されていくんだ、と言う現実を……、……。
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