スノウ2

☆リサーナ☆

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第20章(4)紫夕side

20-4-6

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「ちょいと!あんた、大丈夫かいっ?」

「サクラちゃん!だいじょうぶ~?!」

己の無力さをどれだけ悔しがっても、俺は何も出来ず立ち尽くしているだけ。
ゆきの元に駆け寄って来た亜希あきさんがその背中を摩ってくれて、春来はるきはその後ろで心配そうに、泣きそうな表情で見ていた。
そんな二人に、心配させまい、とゆきは顔を上げて言う。

「っ、……だ、大丈夫、です。
気にしないで下さい。少し前から具合が悪くて、だから……」

けど。
ゆきがそう言いながら、笑顔を作った瞬間だった。

「ーーサクラちゃん、おなかにあかちゃんがいるの?」

ーー……。
……っ、…………は?

春来はるきの後ろに居た、鈴夏りんかが言った。

……、……っ。
ゆきの腹に……赤ん坊?

その言葉は、あまり衝撃的だった。
鳩が豆鉄砲を食ったかのようで、暫し呆然としてしまう。

でも、冷静に考えてあり得ない。
だって、ゆきはどんなに可愛くても男で……。確かに見た目だけなら女性にも見えるが、一糸纏わぬ姿を何度も見て、全てを知っている俺は、すぐに"今時の子はすげぇ事言うな"、って心の中で思って、少し笑った。

……けど。

ゆきの奴、なんて答えるんだーー?

そう思った俺は、ゆきの事を見つめた。

ーー……っ、ゆ……き?

その瞬間、俺の笑いは、すぐに止む。
視線の先に居るゆきのこめかみから一筋の汗が流れて、頬を伝って、落ちた。
溝落ちを摩っていた小刻みに震える手を下腹部に滑らせて、ゆきは明らかに動揺した表情を浮かべている。

まるで、鈴夏りんかに言われた事に心当たりを感じているかのようにーー……。

ドクンッと、俺の心も何かを感じ取ったかのように妙な鼓動を響かせた。
その様子に、俺は、嘘だろ?、って思った。
ここは笑いが湧き起こってもいい筈なのに、あまりに深刻な事態が発生して……。俺は、どうしていいのか分からなかった。

すると、ゆきを女性だと信じて疑っていない亜希あきさんが言う。

「そうだよ、鈴夏りんかの言う通りだよ!
サクラさん、そうなんじゃないかい?あんた、あの一緒に暮らしてるお兄さんと新婚さんなんだろっ?間違いないよ!」

「っ、……ぁ、……で、でも……」

ゆきも、まだ混乱しているかのようだった。
鈴夏りんかの言葉を否定も出来ないけど、暫定も出来ない。
きっと俺と一緒で、まさか、まさか、って色んな考えを巡らせていただろう。
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