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第20章(4)紫夕side
20-4-6
しおりを挟む「ちょいと!あんた、大丈夫かいっ?」
「サクラちゃん!だいじょうぶ~?!」
己の無力さをどれだけ悔しがっても、俺は何も出来ず立ち尽くしているだけ。
雪の元に駆け寄って来た亜希さんがその背中を摩ってくれて、春来はその後ろで心配そうに、泣きそうな表情で見ていた。
そんな二人に、心配させまい、と雪は顔を上げて言う。
「っ、……だ、大丈夫、です。
気にしないで下さい。少し前から具合が悪くて、だから……」
けど。
雪がそう言いながら、笑顔を作った瞬間だった。
「ーーサクラちゃん、おなかにあかちゃんがいるの?」
ーー……。
……っ、…………は?
春来の後ろに居た、鈴夏が言った。
……、……っ。
雪の腹に……赤ん坊?
その言葉は、あまり衝撃的だった。
鳩が豆鉄砲を食ったかのようで、暫し呆然としてしまう。
でも、冷静に考えてあり得ない。
だって、雪はどんなに可愛くても男で……。確かに見た目だけなら女性にも見えるが、一糸纏わぬ姿を何度も見て、全てを知っている俺は、すぐに"今時の子はすげぇ事言うな"、って心の中で思って、少し笑った。
……けど。
雪の奴、なんて答えるんだーー?
そう思った俺は、雪の事を見つめた。
ーー……っ、ゆ……き?
その瞬間、俺の笑いは、すぐに止む。
視線の先に居る雪のこめかみから一筋の汗が流れて、頬を伝って、落ちた。
溝落ちを摩っていた小刻みに震える手を下腹部に滑らせて、雪は明らかに動揺した表情を浮かべている。
まるで、鈴夏に言われた事に心当たりを感じているかのようにーー……。
ドクンッと、俺の心も何かを感じ取ったかのように妙な鼓動を響かせた。
その様子に、俺は、嘘だろ?、って思った。
ここは笑いが湧き起こってもいい筈なのに、あまりに深刻な事態が発生して……。俺は、どうしていいのか分からなかった。
すると、雪を女性だと信じて疑っていない亜希さんが言う。
「そうだよ、鈴夏の言う通りだよ!
サクラさん、そうなんじゃないかい?あんた、あの一緒に暮らしてるお兄さんと新婚さんなんだろっ?間違いないよ!」
「っ、……ぁ、……で、でも……」
雪も、まだ混乱しているかのようだった。
鈴夏の言葉を否定も出来ないけど、暫定も出来ない。
きっと俺と一緒で、まさか、まさか、って色んな考えを巡らせていただろう。
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