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第20章(4)紫夕side
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しおりを挟む「ごめんね、驚いたりして……。
悪く思わないでおくれ。サクラさんがこんな田舎町では見た事ない美人さんだから、驚いただけなんだよ」
そう雪に声をかける亜希さんは、さすが和希のお袋さん、と俺でも納得してしまう雰囲気だった。
優しい声に、優しい笑顔。
雪を不審がったり、興味本位にする様子は全くなくて……。雪は、戸惑っていた。
寂しい、心細い想いをしていた雪が、自らに優しくしてくれる人を突き放すのはとても辛い選択だっただろう。
握り締めている左手の薬指にはまった、俺とお揃いの指輪を右手の指で一瞬触れる仕草から……。きっと雪は、俺を選んでくれていた。
俺が自分の事でいっぱいいっぱいだった時も、雪は自分の事より俺の事ばかり考えていてくれたーー……。
それを目の当たりにした俺は、自分のあまりの身勝手さに、後悔を通り越して失望感すら抱く程だった。
……けど。
俺の本当の後悔。斬月が、"本当に俺に伝えた事"は、この先にあった。
「コレ、お口に合うと良いんだけど……。
昨日この子達がお世話になったお礼に、受け取ってくれるかい?」
なかなか言葉を発せずに居た雪に、そう言った亜希さんがバスケットからお皿に乗ったお菓子を取り出し、目の前に差し出した。
すると、その直後。
「っ?……雪ッ?!」
俺は、思わず名前を叫ぶように呼んでしまった。
何故なら突然、雪が自分の口を手で押さえながらその場を駆け出して行ったからだ。
「雪?!っ……雪!どうしたんだッ?!」
これが斬月の見せている過去の出来事だなんて一気に頭から吹き飛んで、俺は慌てて雪の後を追う。
雪が駆け込んだのは、トイレ。屈み込んで、便器の中に苦しそうに嘔吐していた。
「……っ。
やっぱり……まだ具合、悪かったんだな」
その様子に思わず摩ってやろうとした自分の手が雪の身体からすり抜けて、俺はようやくこの状況が現実ではない事を思い出した。
辛そうに息をする背中を、摩ってやれないこの状況が恨めしい。
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