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第20章(4)紫夕side
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しおりを挟むまさかの光景に、思わず瞬きもせずに見つめる。
ゆっくりと、歩みを進めて玄関へ行くと、開いた扉から見えるコテージの外に居たのは、雪と二人の子供。
その、赤毛の男の子と茶髪の女の子は、俺に雪が連れ去られた事を教えてくれた子供達で……。マリィの話で分かった、和希の弟と妹の子。春来と鈴夏。
「良かった。これなら消毒すれば大丈夫そうだね?
今、救急箱を取ってくるから、少し待ってて」
鈴夏の転んで擦りむいた膝の状態を診ていた雪は、ホッとしたように微笑むと、そう言って立ち上がろうとした。
けど、そんな雪を子供達が引き止める。
「ーー……ようせい、さん?」
「っ、え?」
「おねえさん……ようせいさん、なの?」
そう尋ねられて、雪は戸惑った表情を浮かべていた。そんな雪を、子供達は目を輝かせて見つめている。
「っ、……ご、ごめんね?妖精じゃ、ないんだ」
「ちがうの?」
「う、うん」
「じゃあ、おなまえはー?」
「え?」
「おねえさん、おなまえなんていうのー?」
「っ、……」
お姉さんーー。
寝巻き姿だし、髪が長く綺麗な顔立ちをした雪を女性だと思うのも無理はない。
子供の純粋な瞳に見つめられて、本当の事は言えなかったんだろう。
雪は、微笑みながら答えていた。
「……サクラ」
「!……さくら?」
「うん、サクラって、言うんだ」
俺が旅先で自分の父親である「三月」と名乗っていたように、雪は自分の母親である「サクラ」って子供達に名乗っていた。
間違いない。
これは、俺が仕事に出掛けていた間の……。俺の知らない、雪の時間の事だ。
それを斬月が、俺に見せているんだ。
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