412 / 589
第20章(3)紫夕side
20-3-7
しおりを挟む同時に、俺の中によみがえる記憶。
それは、俺が親父の四十歳の誕生日を祝った時の光景だった。
何だか元気のなかった親父を励ましたくて、ぐちゃぐちゃだけど自分なりに頑張って作った料理。模擬試験で1番の成績を取って報告した、あの時の記憶。
さっきまで客観的に見ていたようだった映像が、まるであの日に還ったようによみがえる。
俺を包み込んでいる"何か"は、間違いなく親父で……。驚きで呆けている俺から少し身体を離した親父が、大好きな笑顔で微笑っていた。
本当に親父なのか。
それとも、斬月の力で具現化された幻のようなものなのか、分からない。
でも、その笑顔が俺に伝えてくれる。
「今でも思う。紫季に起きた事件がなければ良かった、って……。
でも、そしたら紫夕はいなかったんだ、って思うと……「それは嫌だ!」とハッキリ言える自分がいる」
それはきっと、所有者と心を通わせられる斬月だけが聴くことが出来た、親父の本音。
ーー……ああ、そっか。
全部、……全部、親父、なんだよな?
そう、斬月の伝えたかった想いを悟った瞬間。俺から涙と笑顔が溢れたのは、きっと同時だった。
斬月が、さっきまでの過去を俺に見せなくとも、今のこの想いだけを伝える事も出来ただろう。
けど、さっきまでの親父を知れたから……。色んな親父を見てきたからこそ、俺は今聞けた本音に重みを感じた。
困惑や葛藤や妥協。
あれだけの出来事を背負い込んで、初めから素直に受け入れられる人間なんていない。
目の前の親父には、その全てを乗り越えた上での笑顔が溢れていて……。血の繋がり以上の絆が、俺達の間にある事を証明してくれているようだった。
斬月は伝えてくれる。
一字一句、親父が俺へ抱いてくれていた言葉の全てを……。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる