スノウ2

☆リサーナ☆

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第20章(3)紫夕side

20-3-7

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同時に、俺の中によみがえる記憶。
それは、俺が親父の四十歳の誕生日を祝った時の光景だった。
何だか元気のなかった親父を励ましたくて、ぐちゃぐちゃだけど自分なりに頑張って作った料理。模擬試験で1番の成績を取って報告した、あの時の記憶。

さっきまで客観的に見ていたようだった映像が、まるであの日に還ったようによみがえる。
俺を包み込んでいる"何か"は、間違いなく親父で……。驚きで呆けている俺から少し身体を離した親父が、大好きな笑顔で微笑っていた。

本当に親父なのか。
それとも、斬月ざんげつの力で具現化された幻のようなものなのか、分からない。
でも、その笑顔が俺に伝えてくれる。

「今でも思う。紫季しきに起きた事件がなければ良かった、って……。
でも、そしたら紫夕コイツはいなかったんだ、って思うと……「それは嫌だ!」とハッキリ言える自分がいる」

それはきっと、所有者と心を通わせられる斬月ざんげつだけが聴くことが出来た、親父の本音。

ーー……ああ、そっか。
全部、……全部、親父、なんだよな?

そう、斬月ざんげつの伝えたかった想いを悟った瞬間。俺から涙と笑顔が溢れたのは、きっと同時だった。

斬月ざんげつが、さっきまでの過去を俺に見せなくとも、今のこの想いだけを伝える事も出来ただろう。
けど、さっきまでの親父を知れたから……。色んな親父を見てきたからこそ、俺は今聞けた本音に重みを感じた。

困惑や葛藤や妥協。
あれだけの出来事を背負い込んで、初めから素直に受け入れられる人間なんていない。
目の前の親父には、その全てを乗り越えた上での笑顔が溢れていて……。血の繋がり以上の絆が、俺達の間にある事を証明してくれているようだった。

斬月ざんげつは伝えてくれる。
一字一句、親父が俺へ抱いてくれていた言葉の全てを……。
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