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第20章(3)紫夕side
20-3-5
しおりを挟むすると、親父の問い掛けにずっと俯いていたお袋が顔を上げて言った。
「だって、この子には関係ないじゃない。
「簡単に人を嫌ったりするな!」そう、いつも言ってるのはお兄ちゃんでしょ?」
そう言うお袋の表情は、自分の記憶の中にある優しい笑顔と少しも変わらなくて……。俺は自分の母親だとか、そういう感情を抜きで本当に綺麗だと思った。
あまりに美しく微笑むから、親父も思わず、言葉を詰まらせていた。
そんな親父に、お袋はまた記憶と変わらない強かさを見せる。
「反対なら、私ここを出て行く。
お兄ちゃんには迷惑かけないから、安心して?」
「!っ、ま……待て!
分かった……っ、分かったから!」
荷物をまとめ始めようとするお袋を見て、親父は"仕方ない"って表情で、折れていた。
……
それは誰がどう見ても、明らかに妥協と困惑しながらの生活。
お袋の事を気遣い、優しく笑顔で接する親父だけど……。ふとした瞬間や、一人になると溜め息を吐いたり、何か考え込むように塞ぎ込んでいた。
ーー胸が締め付けられる。
いつも明るくて元気な親父が、自分のせいで曇っているのを見るのが……辛い。
お腹の子の性別が分かった時も、正直な親父は全然隠せていなかった。
「せめて女の子なら良かったのに……」
無理して、笑顔を作ってお袋に寄り添う姿を見た時……。俺は消えてなくなってしまいたかった。
やっぱり、俺は生まれてこない方が良かったんじゃねぇかーー……?
優しく、大切そうに大きくなっていくお腹を撫でて語り掛けてくれるお袋の愛を感じながらも……。俺にはやはり、無理をしている親父の気持ちを強く感じてそう思わずにはいられなかった。
……
生まれて、その腕に抱いてもらって、「紫夕」って名前を貰っても……。
お袋と一緒に育児をしてくれる様子を見ていても、「紫季が笑顔ならそれでいい」って……親父の顔に書いてあるように、見えた。
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