394 / 589
第20章(1)紫夕side
20-1-3
しおりを挟むリンゴにはちょっとした思い出があった。
俺はビニール袋からリンゴを一つ取り出して軽く水で洗うと、そのまま丸齧りしながら"ある人物"の事を思い出した。
その人物とはーー……。
……
…………。
それは、俺が19歳の頃の出来事。
「紫~夕!ほいっ!プレゼント~!!」
「!?っ、ぐぇ……ッ!!」
守護神の本部の中庭。訓練終わりに芝生で昼寝をしていたら、腹の上にドスンッ!!と重い物が乗せられ、俺は思わず吐きそうになった。
何事だ?!と、「ゴホゲホッ」と咳き込みながら上半身を起こすと、腹の上に乗せられていたのは袋いっぱいに入ったリンゴ。
そして、誰かが自分の側にいる気配に目を向けると、そこに居たのは眩しい無邪気な笑顔を浮かべた赤毛の青年。
俺の同期で同い歳。一緒に守護神で隊員として働く、平野 和希。
「っ、……お、おま、ッ……お前なぁ~!!」
「うちの実家からさ~大量に送ってきたんだよね。だから、紫夕にもおすそ分け!……ホラ!美味しいよっ?」
「っ、……たくっ」
怒ろうと思ったのに、隣に腰を降ろして来て、歯を見せて微笑みながらリンゴを差し出されたら……もう、怒れない。
なんつーか、どんなにムカついていたりしても毒気を抜かれる。
和希は、そう言う奴だった。
「……てか。
俺もこんなに食えねぇぞ?一人暮らしだし」
「風磨にもあげようと思ったんだけどさ~、「遠慮しとく」って返されちゃったんだぁ~。
紫夕、彼女にあげればいいじゃん。今は……受け付けのお姉さんだっけ?」
ビニール袋に入ったゆうに10個以上はあるであろうリンゴを見つめながら会話していると、和希はそのリンゴを一つ取って、服で軽く磨くとガリッと丸齧りする。
「このままでも美味いんだけどさ、ずっと食べてるとさすがに飽きてくるんだよね~。
……あ、そうだ!マリィにアップルパイにしてもらお~!あいつのお菓子、絶品だからなぁ~」
そう言って、和希は嬉しそうに身体を揺らしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる