386 / 589
第19章(4)雪side
19-4-3
しおりを挟む「この子に何かあったら、オレ……っ」
紫夕に愛想を尽かされて、家を出て来て……。赤ちゃんにまで何かあったら、自分はもう生きていけないと思った。
震える手で自分のお腹辺りの掛け布団をギュッと握り締めると、そんなオレに朝日さんが胸ポケットから取り出した、白黒の小さな紙を差し出す。
それが何なのか、オレにはすぐ分かった。
どんなに憧れても、望んでも……。
絶対に自分には、手に入らないと思ってたものーー……。
いつも、隣で見つめていながらも、何処か遠い気がしてた。
マリィの元に訪れる妊婦さんが、嬉しそうに、愛おしそうに眺めていた写真。大切に大切に、その手にしていた、赤ちゃんのエコー写真だった。
「オイッ」って、止めようとする響夜を抑え込んで、朝日さんはオレにエコー写真を渡してくれた。
自らの手で持って、その姿を目にした瞬間。思わず、心の声と笑顔が溢れ出す。
「……っ、……。可愛い……ッ」
それは、きっと他人から見たらただの小さな影。
けど、オレにとっては大きな光で……。可愛くて、愛おしくて……。
自分は今、この子と一緒に生きてるんだーー。
って、思った。
まるで、止まっていた心臓が再び動き出したかのように、胸が熱い。
同時に、紫夕と心が離れてしまったあの夜に流した冷たい涙とは違う暖かい涙が、溢れて……落ちた。
すると。持っていた点滴の用意を一旦台の上に置いた朝日さんは、オレが寝ているベッドの側に椅子を持って来て座ると、姿勢を正して言った。
「……君に、話さなきゃならない事がある」
「!っ、……朝日ッ」
「サク君が……。
っ、本人が妊娠に気付いているのに……。それなのに、何も知らずに黙って処置するのは……違うだろうっ?」
オレに何かを話そうとする様子を察した響夜は遮ろうとするけど、またそれを、朝日さんが遮って……。ゆっくり、オレに向かって話し始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる