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第19章(2)朝日side
19-2-5
しおりを挟む「これ、紫季がアンタに返しそびれてたみたいでな」
私の考えなどとは裏腹に、そう言って三月さんが差し出して来たのは一冊の本だった。
かつて私が紫季さんに貸した、本。
数年後ぶりに目にする本と共に、紫季さんとの楽しかった記憶が巡り掛けた私に、三月さんが言葉を続ける。
「長い事、悪かったな。なかなか、アイツの遺品を片付ける気になれなくて……遅くなっちまった」
ーー……え、っ?
その言葉を聞いて、私は紫季さんが亡くなった事を知った。
そして、あの日の罪は、これからどれだけ時が過ぎようとも変わらない事をーー……。
「ーー親父!
まだかよ!早く訓練行こうぜ~!!」
こちらに向かって叫ばれる少年の声。
ハッとして、私は目を向けた。
まだ、男とは言え切れない幼さを残すその少年を見た瞬間。私には彼女しか思い浮かばなかった。
艶やかな黒髪を風に揺らしながら、こちらを見つめる漆黒の瞳。
私は思わず、その名前を心の中で呼んだ。
ーー……紫季、さんっ?
「ーー紫夕!!
今かーちゃんの大事な用すませてんだ!もうちょい待てぇいっ!!」
一瞬、似ているだけか?、とも思った。
あの少年が三月さんの息子さんであり、紫季さんの甥っ子ならば、血縁関係である以上似ている可能性は十分にある。
けど、"かーちゃん"。
先程の話の流れと三月さんの言葉に、あの少年が紫季さんの息子である事は決定的だった。
そして、あの少年の大きさから年齢を推測するに、父親はーー……、…………。
最初で最後。
自分が生涯でたった一度だけ、身体を繋げた記憶が頭の中でフラッシュバックした。
「悪りぃ、もう行くわ!
紫季、言ってたぜ?アンタは必ず立派なお医者様になる、って。今度オレがケガしたら、診てくれよなっ?」
去り際にそう優しい言葉と笑顔を向けてくれる三月さんに、私は何も言えなかった。
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