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第19章(2)朝日side
19-2-2
しおりを挟む想いを伝えるつもりもなければ、恋人になってほしい、なんて望んでいなかった。
想いを伝えて、彼女と気不味くなるのは嫌だった。
このまま、今のままでいいーー……。
そう思って、毎日を過ごしていた。
……
………けど。
今思えば、気持ちを伝えておけば良かった、と後悔している。
それは、ある日突然やって来た。
「朝日君、君に命令だ。この女をめちゃくちゃに犯せ」
呼び出された研究室で、一枚の写真を見せられながら橘さんがそう告げた。
一瞬、何を言われたのか意味が分からなくて……。私はただ、写真に写る女性を見つめた。
その写真に写っていたのは、間違える筈もない自分の想い人である、紫季さん。
「……っ、た……橘さん?な、なんの……冗談ですか?」
声が、いつもとは違う意味で、震えた。
冗談であってほしい、と苦笑いしながら尋ねると、橘さんはカツンッカツンッと、革靴の音を響かせながら研究室内を歩き話す。
「邪魔なんだよねぇ。その女は、私のこれからに実に邪魔な人物と関係しているんだよ。
だから、めちゃくちゃにして、壊してほしいんだ」
最初は笑いを含んでいた声が、次第に本気の、威圧の込もったものに変わったいく。
「無理です」と、喉まで出かかった叫びが、振り返って見つめられた表情と言葉に遮られる。
「……ね?お願いだよ、朝日君。
私がこれまで君にしてやった事を、忘れた訳じゃないだろう?」
ーー……
そう言われて、逆らえる筈が、なかった。
田舎で、決して恵まれた家庭に生まれた訳じゃなかった私は、医者になりたい、と思っても金銭的に無理だ、と諦めていた。
そんな時、出会ったのが橘さんだった。
橘さんは私を認めてくれて、「君を私のチームにスカウトしたい」と、学費も、生活面も、金銭面の全てを賄って面倒をみてくれた。
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