367 / 589
第18章(4)雪side
18-4-3
しおりを挟むシンッとした部屋の中に、風磨さんの「フフッ」って笑い声と一歩踏み出す足音が鳴って、オレは思わずビクッと身体を揺らした。……が。
「ーーまあ、いいや。
今日は僕が引き下がるとしよう」
ーー……え?
聞こえたのは、予想外の言葉。
「響夜君とは本気でやり合いたくないし……。出来れば、嫌われたくないからね。"お義兄さん"」
お義兄さん。
その言葉を強調させて響夜に言うと、風磨さんの足音は遠ざかって行き……。バタンッ、と、扉が閉まる音がした。
……
……、……助か、った?
ゆっくり伏せていた視線を上げて、部屋を見渡す。そこには確かに姿も見えなければ、風磨さんの気配はこの部屋から完全に消えている。
本当に、出て行ったようだ。
勿論、首輪はまだ着けられたままだし、いつ再び襲われるか分からない手の中。けど、ひとまず危機は去った。
しかし、そうホッとしたのも束の間。
「ーー……ぅ、っ!」
気持ち、わる……っ。
一難去ってまた一難。
胃液が込み上がってくる感覚。吐きそう。
オレは咄嗟に口を押さえて、トイレに向かおうとベッドから降りようとした。でも……。
「ーーっ?……危ねぇッ!!」
ガクンッと自分の身体が落ちる感覚と、その声はほぼ同時だった。そしてその直後に感じる、自分を抱き締めてくれる温もり。
焦るあまり布団に足を取られて、ベッドから落ちそうになったオレを、響夜が抱き止めてくれたのだ。
ありがとうーー。
そう言いたかったけど、オレはまた言えなかった。
「っ、たく!何やってんだ、おめぇーー……」
「ーーっ、ゲボッ」
堪え切れなくて、オレは響夜に抱き止められたまま嘔吐してしまう。
床にビチャビチャと吐瀉物が滴り落ち、その後も咳き込みながら何度も嘔吐した。
その結果、飛び散った吐瀉物は床や自分の手や衣服だけではなく……。響夜の事も、汚してしまった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる