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第17章(4)雪side
17-4-3
しおりを挟むそんなに広くない静かなコテージ内には、紫夕が脱衣所で服を脱ぎ捨てる音も、お風呂場に入ってシャワーを浴びてる音もすごく響いて、オレの耳にはいっそうよく聞こえた。
耳を塞ぎたいーー。
紫夕が近くに居なくても、残り香が漂う。
その匂いから、昨夜紫夕が何をしていたのか、と……想像せずにはいられない。
匂いなんて感じたくないーー。
並外れた聴覚と嗅覚を、こんなにも憎らしく嫌だと思う日が来るとは思わなかった。
浮気は男の甲斐性。
昔、マリィから借りた漫画にはそう書かれてた。
紫夕がいつか再び女性に触れたいと思う日が来たら、それは仕方ない、って思ってた。
ーー……でも、…………。
「……っ、……」
身体が震えて、力が入らなくて……。オレはそのまま崩れるみたいに床に座り込んだ。
もう、何処が痛いのか……。いや、痛いのかすら、分からない。
ただもう、息をする事すら苦しい。
ああ……。
魔器で心臓を貫かれる方が、きっと何百倍も楽だーー……。
とっくにとっくに、オレの紫夕への想いは"仕方ない"なんて簡単に片付けられるものではなくなっていた。
…………嫌だ。
……、っ……嫌だ。……嫌だ、嫌だッ……嫌だ!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、っ、嫌だーー……ッ!!!!!
心の中は、駄々を捏ねる子供のようだった。
けど、頭の中では必死に、どうしたらいいか考えていて……。
どうしたら紫夕に振り向いてもらえるか。
どうしたら紫夕を繋ぎ止められるのか……。
そんな事ばかり、考えていた。
今の自分に出来る事。紫夕が興味を持ってくれる事。
また優しくしてもらうには?
愛してもらう為には?
捨てられない為には、どうしたらいいーー……?
背後からガチャッ、って音がして顔だけ振り返ると、お風呂から出て着替えた紫夕が立ってた。
……けど。
紫夕がオレを見る事も、声を掛けてくれる事もない。
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