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第14章(2)紫夕side
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しおりを挟むこのままじゃ肌荒れしてしまうと思った俺は、ぐっすり眠っているのを確認すると、濡れたタオルでそっと雪の顔を綺麗に拭いてやった。
……腹の傷。診てやりてぇけど、さすがに起きちまうよな?
さっきもだが、今も眠っている雪は何だか腹の傷を気にしているような寝方だ。
その雪の様子や寝顔を見て、俺には何となく分かる。
この雪は、まだ魔物のままだーー。
そう感じて、目を覚ませばきっとまた俺を見て威嚇する姿が想像出来る。
さっきは怪我と飢えのせいで万全じゃなかっただけで、雪が本来の力を取り戻したら手が付けられないかも知れない。最悪、今度こそ自分が喰い殺される事も頭を過った。
そうなる前に……。
雪が人を殺めてしまう前に、楽にしてやった方がいいのかも知れないーー……。
そんな事も考えた。
……、けど…………。俺の手が、斬月に伸びる事はなかった。
替わりに、俺は気付いたら雪のお気に入りのブランケットを手に取って、そっと掛けてやっていた。
昔、保護したばかりの頃。病室の片隅から動かなかった雪にしてやったように……。
ーーー俺が、お前を殺してやる……ーーー
その選択肢に矢印が向く事は……。いや、そもそも、その選択肢は俺の中にはなかったのかも知れない。
約束したのに……。その選択肢を無視して、俺は魔物になってしまった雪を生かす道を……。
いや。この雪と生きる道を選んでた。
「……。肉、たりねぇよな?
俺がたらふく喰わしてやるから、心配すんな?」
絶対に、お前に人を殺めさせないーー。
そう心に決めて、俺は立ち上がると荷台の施錠をしっかりして、森の中に向かった。
雪の為に。俺はその日から食料となる肉を調達するべく、動物や魔物を狩る日々が始まった。
……
…………。
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