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第13章(2)雪side
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しおりを挟むーー……ああ。
これでやっと、紫夕を自由にしてあげられる。
走りながら、そう思った。
「ーー……俺が、お前を殺してやる」
紫夕、ありがとね。
あの夜。そう言ってくれて、本当に嬉しかった。
でもね、最初から決めてたんだ。
そんな辛い事、紫夕にさせないよ?
どうしようもなくなったら、オレは自分から離れて、独りで最期を迎えるつもりだったんだ。
……。
…………でも、早すぎるよ。
もう少し。
もう少し、一緒に居たかったな。
けど。
紫夕にとったら、この一ヶ月はきっと心も身体も休まらなかったよね?
ごめんね、怖がらせちゃって……。
それでも、傍に居させてくれて。
恋人でいさせてくれて、本当にありがとう。
最後に手を握り締めて、一緒に逃げようとしてくれて、本当に本当にありがとうーー……。
怖がられたままの方が。いっその事、嫌われた方が良い、って思ってたけど……。
やっぱり、最期に触れてもらえて。想われてるんだ、って知れて、嬉しかったな。
……
…………、…………。
懸命に、懸命に。ただ、ひたすら走り続けた。
町を出て、平原を走って、森に着いてからもずっと……。
いつの間にか辺りは薄暗くて、静かな森の中には虫の鳴く声と自分の荒い、乱れた呼吸が響いて聞こえる。
っ……ここまで来れば、大丈夫……かな?
足を止めると、疲労が一気に来て両膝を地面に着いてそのまま座り込んだ。
誰も殺さずに済んで、良かったーー……。
呼吸を整えながら、そう思ってホッとして、ほんの少し笑みが溢れる。
……でも。
すぐにさっきの自分を思い出して、ゾクッと震えた。
町に足を踏み入れてお肉の美味しそうな匂いを嗅いだら、まるで自分の中にもう一人誰か居るみたいに食欲が溢れ出したんだ。
タベタイ。
オニク、タベタイーー!!……って。
そしたら、お店のショーケースのお肉は勿論。道行く周りの人達さえ、オレには"お肉"に見えた。
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