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第12章(3)紫夕side
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しおりを挟む「!……紫夕?どうしたの?」
「いや、何でもねぇ……。
可愛いな、って思ったんだ」
突然抱き締められてクスクス笑う雪。そんな雪に「何でもない」って答えながらも、俺は心の中で思った。
何で、こんな良い奴が苦しまなきゃいけねぇんだ……っ。
そう、思っちまった。
世の中は理不尽だ、って。そう、思わずにはいられなくて……。俺は何だかもどかしくて、悔しかった。
けど、そんな微妙になってしまった俺の心を和ましてくれるのも雪だ。
抱き締めていると、突然ぐ~っと腹の虫が鳴る音が聞こえて、雪が恥ずかしそうに「オレもお腹すいちゃった」って笑う。その姿を見たら、俺も自然と笑ってた。
「ははっ、雪がお腹すいた、って言うなんてよっぽどだな!食おう食おう!」
「うんっ」
少食で、甘い物以外あまり食に興味を示さなかった雪が腹を鳴らして「お腹すいた」って口にするのは、かなりレアな出来事だった。
後から思えば、きっとこの時から雪の身体には少しずつ変化が表れてたんだーー……。
「てかさ。この魚どうしたんだ?」
朝食の最中、俺はふと疑問に浮かんだ事を口にした。
積荷の中の食材に、確か魚はなかった筈だ。それに、釣り道具も。今後必要になるから次回の買い物の時に一式揃えようとは思っていたけど……。
それに、俺の知る限り雪に釣りの経験はない。
そんな雪が、一体どうやって魚を獲ったんだーー?
その疑問の答えは、雪の口からあっさりと返ってきた。
「川を凍らせて獲ったんだ」
「……。は?」
雪の言葉を、俺は一瞬理解できなかった。
川を凍らせるーー?
そんな、ファンタジー漫画やアニメのような事……。いわゆる、魔法、みたいな事が出来るなんて有り得ない。
……ああ、そうか!
これは、きっと雪なりのジョークだ!
雪、そんな冗談も言えるようなキャラになったのか?と、俺は思って……。それなら、一緒に楽しんでやらなきゃ、って、気持ちを切り替えて、ノリの良い風に言葉を返そうと思った。……でも。
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