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第12章(3)紫夕side
12-3-1
しおりを挟む雪にお袋の話をしたせいか、夢を見た。
優しくて、綺麗で、料理が上手くて……。俺が4歳の時に亡くなっちまったから美化されてるだけかも知れないが、良い思い出しかほとんどない。
可愛い顔してるのに親父には結構強気で、年齢は親父より下の筈なのに尻に敷いてたな。
……でも、時折人が変わったみたいに取り乱す事があった。
まるで何かに怯えているかのように錯乱して、そうなった時は、暫く傍に行けなかった。
「紫季は……。かーちゃんはお外が怖いんだ。
だから、紫夕も外で遊びたくてもとーちゃんがいない時は我慢してくれ。なっ?」
お袋は家から外に出る事を極端に拒んで……。一緒に外に出た記憶は一度もなかった。
あの頃は子供ながらに、聞いちゃいけない気がして聞かなかったが……。お袋は、何故あんなにも外に出る事を怖がってたんだろうな。
……
…………。
「……っ、……ん」
焼き、魚の匂い……?
香ばしい、美味そうな匂いで、俺は夢の世界から現実の世界へと目を覚ます。
目を開けて隣を、辺りを見渡すとそこに愛おしい者の姿はなくて……。すぐにピンッときた俺はゆっくり身体を起こすと、伸びをして荷台から外へ出た。
パチパチと聞こえる焚き火の音。魚の焼ける良い匂いに導かれて足を進めると、俺が姿を見付けると同時にパッとこちらに視線を向けた雪と目が合った。
「おはよう、紫夕!
……見て~。少し、焦げちゃった」
俺を見て嬉しそうに微笑ってくれる表情も、焚き火の火加減で料理をする事を難しそうにする拗ねたような表情にも、愛おしさが込み上げる。
優しくて、綺麗で、料理が上手い。
俺、知らず知らずのうちにお袋みたいな子、好きになってたんだなーー……。
雪を見て、そう思った。
そして、何一つ親孝行してやれる前に亡くなっちまったお袋の分まで、幸せにしたい、って強く思った。
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