234 / 589
第11章(2)紫夕side
11-2-7
しおりを挟む必死に俺に返事を返そうとして……。でも、涙が止まらなくて言葉を詰まらせて、ただ、俺の名前をひたすら繰り返して呼ぶ、子供のような姿。
そんな雪を見て、俺はよりいっそうその存在を愛おしく思った。
「雪。
一緒に見付けよう。一緒に生きられる未来を」
俺がそう言うと、上手く出ない言葉の代わりに何度も頷く雪。
俺はポケットから自分の指輪も取り出すと、雪の手にそれを渡した。
「俺にも、はめてくれるか?」
「っ、……う、んっ」
そしたら雪は、俺の左手をそっと取って、薬指にお揃いの指輪をはめると……。
「ーー雪、最高に綺麗だ」
思わず、そう言葉に出てしまう程に、幸せそうに微笑ってくれた。
祝福の鐘も、ドレスも、ブーケもなくても。俺の瞳には、雪がこの世で1番綺麗な花嫁に見えた。
俺達は、三日月と満天の星に見守られながら愛を誓って、口付けた。
すると、寒くないのに、空からチラチラと粉雪が降ってきて……。きっと、サクラさんが親父と一緒に俺達を見に来てくれたんだ、って思った。
雪は暫く夜空を見上げていた。
でも、スッと立ち上がると、
「……紫夕。
もう一回、……抱いて」
羽織っていた服をパサッと脱ぎ捨てた。
粉雪が舞い落ちる中に浮かぶ、一糸纏わぬその姿を、俺は生涯忘れないだろう。
「……ああ」
自らも立ち上がり、その細い身体を抱き寄せる。
自分の欲を満たす為じゃなくて、愛おしい人に愛を伝える為に、抱きたいと思ったんだ。
「今日だけ、特別に。……いっぱい、していいか?」
言葉の代わりに頷いてぎゅっと抱きつく雪を抱き上げると、俺は車の寝所スペースに移動した。
そして今度は、雪の全てをじっくり目に焼きつけながら、ゆっくり触れていった。
このまま一緒に、死ねたらいいのにーー……。
その夜は、そう思える程に、大切で愛おしかった。
……
…………。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる