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第10章(2)紫夕side
10-2-5
しおりを挟む確かに、今、俺は正直「いいな」って思った。
ハルとその両親の姿を見て、幸せそうだな、って……。結婚して、子供がいて、家族で仲良く暮らすのも悪くないだろうな、って、思ったよ。
……けど。同時に、気付いたんだ。
俺がそう思えるようになったのは、雪を愛したからなんだ。
そして、雪が俺を愛してくれたから、そう思うようになったんだ。
「……普通の幸せなんて、いらねぇよ」
ポツリッと呟いて、俺は再び雪を求めて走り出した。
今なら雪に言われた言葉にショックなんて受けないで、雪の不安な気持ちを消してやれる、って思った。
俺の幸せは、雪が居てこそなんだーー。
結婚して、子供が居て、幸せな家庭を築けたらいいな、って思う。
けど、その相手は他の誰でもない雪じゃなきゃダメなんだ。雪がいなきゃ、俺はその幸せが欲しいとは思わない。
だから、雪が相手でその望みが叶わないなら……。俺は、そんな幸せはいらない。
雪以外、俺はもう愛せないんだーー……。
「ーー……紫夕?」
「!っーー……」
走って、走って、走り回って……。数時間振りに聞いたその声は、ひどく懐かしく感じた。
その声に足を止めて視線を向けると、本当に、見る度に美しさを増してるんじゃないか?って、声も出せない程に驚いて、目を疑った。
ーー……ああ、ホント、綺麗だな。
オレンジ色の光に染まる白髪の輝きに瞳を貫かれて、俺はいつの間にか夕方になっていたのだと気付く。
去年、雪と初デートで見たあの夕陽よりも、今日、今、この瞬間が1番綺麗だーー……。
眩しいのに瞳を逸らせなくて、俺は導かれるように一歩ずつ歩み寄る。……でも。
「ーー遅かったッスね、紫夕さん」
その声に、ハッとして足を止めた。
俺の行手を遮るのは、黒い闇。
俺と雪の間を、ニヤリッと笑った響夜が立ち阻んだ。
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