スノウ2

☆リサーナ☆

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第10章(2)紫夕side

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確かに、今、俺は正直「いいな」って思った。
ハルとその両親の姿を見て、幸せそうだな、って……。結婚して、子供がいて、家族で仲良く暮らすのも悪くないだろうな、って、思ったよ。

……けど。同時に、気付いたんだ。
俺がそう思えるようになったのは、ゆきを愛したからなんだ。
そして、ゆきが俺を愛してくれたから、そう思うようになったんだ。

「……普通の幸せなんて、いらねぇよ」

ポツリッと呟いて、俺は再びゆきを求めて走り出した。

今ならゆきに言われた言葉にショックなんて受けないで、ゆきの不安な気持ちを消してやれる、って思った。

俺の幸せは、ゆきが居てこそなんだーー。

結婚して、子供が居て、幸せな家庭を築けたらいいな、って思う。
けど、その相手は他の誰でもないゆきじゃなきゃダメなんだ。ゆきがいなきゃ、俺はその幸せが欲しいとは思わない。
だから、ゆきが相手でその望みが叶わないなら……。俺は、そんな幸せはいらない。

ゆき以外、俺はもう愛せないんだーー……。


「ーー……紫夕しゆう?」

「!っーー……」

走って、走って、走り回って……。数時間振りに聞いたその声は、ひどく懐かしく感じた。
その声に足を止めて視線を向けると、本当に、見る度に美しさを増してるんじゃないか?って、声も出せない程に驚いて、目を疑った。

ーー……ああ、ホント、綺麗だな。

オレンジ色の光に染まる白髪の輝きに瞳を貫かれて、俺はいつの間にか夕方になっていたのだと気付く。

去年、ゆきと初デートで見たあの夕陽よりも、今日、今、この瞬間が1番綺麗だーー……。

眩しいのに瞳を逸らせなくて、俺は導かれるように一歩ずつ歩み寄る。……でも。

「ーー遅かったッスね、紫夕しゆうさん」

その声に、ハッとして足を止めた。
俺の行手を遮るのは、黒い闇。
俺とゆきの間を、ニヤリッと笑った響夜きょうやが立ち阻んだ。
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