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第10章(1)雪side
10-1-1
しおりを挟むシュッ!と投げられたダーツの矢が、スコーン!と、良い音を鳴らして的の中心に刺さる。
「っ、すご~い!」
隣で見ていたオレが感動の声を上げると、周りで見ていた他のお客さんからも拍手と歓声が湧き上がった。
そんな注目を集めているのは響夜だ。さっきから投げるダーツの矢は、全て的の真ん中ばかりで……。ミスなんて一度もない。
オレはダーツはやった事ないし、詳しいルールは知らないけど、響夜がすごいんだ、って事はなんとなく分かる。
しかし、響夜は涼しい表情のまま言った。
「別に、普通だろ?……ホラ」
「!……え?」
「お前もやってみろ」
「っ、ええ?!む、無理っ……!」
響夜の言葉に、オレは首を横に振って拒否した。
コントロールとか、得点が高い所に当てる、とか言う以前に、オレにはまずあの的まで矢を飛ばす事が出来るか、が問題だったからだ。
ましてや響夜がすごいから、お店の周りには人集りが出来てしまってるし……。そんな中で、初心者の自分が投げる、なんて勇気はない。
でも、そんなオレに響夜は溜め息を吐くと、オレの両頬を自分の両手で挟むようにして軽くパンッと叩いた。
「っ、いた……」
「何でも最初っから諦めんな」
「……っ」
「言っただろ?自信持て、って」
響夜の瞳が、オレを真っ直ぐに見つめてる。
その瞳を見て、オレはここに来る少し前の事を思い出した。
……
…………アイスを食べ終わると。
響夜は屋根の上でオレの悩みと涙の理由、何故一人で居たのかを聞いてくれた。
「なるほどな。そんで、紫夕さんと拗れた、って訳か」
「……うん」
何故こんな事を話してしまったのか、また響夜が聞いてくれたのかは、分からない。
けど、話しているうちに、話を聞いてもらう事でようやく冷静になれたオレにはものすごい後悔が押し寄せていた。
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